スティーブ・ジョブズ(1) (KCデラックス)

『テルマエ・ロマエ』作者が描く偉人伝『スティーブ・ジョブズ』

スティーブ・ジョブズ(1) (KCデラックス) 古代ローマの浴場技師が現代日本へタイムスリップし、深遠なるフロ文化を学ぶ……『テルマエ・ロマエ』劇場版の2作目もすでに発表されており、テルマエブームはまだ去りそうにない。今回はその作者、ヤマザキマリ氏が現在描いている『スティーブ・ジョブズ』を紹介したい。

タイトルから分かるとおり、iPhoneなどで知られるアップル社の創業者スティーブ・ジョブズを題材にしたのが本作。ヤマザキ作品としては珍しく原作つき、しかも伝記ジャンルという新たな挑戦だ。原作は2011年に講談社から発売された同名タイトルの書籍(ウォルター・アイザックソン著)。世界中で反響をよび、日本でもベストセラーになったので記憶している人も多いだろう。

今回は伝記ということもあって、タイムスリップなどのファンタジー要素はカット。もともと偉人の行動や業績はどこか常人ばなれしたところがあるので、余計な誇張は必要ない。ならば『テルマエ』作者にわざわざ描かせなくても良いのでは――と思う人もいるだろうが、実はそうでもなかった。

コミックス第1巻はジョブズの幼年期、1962年からスタート。養子として育った彼の生い立ちに触れ、いかにして技術者への道に進んだかが語られる。その特異なパーソナリティから他人とぶつかったり、かと思えば日本の「禅」に傾倒したり、あげくはインドまで導師を探しに行ったり、とにかく波瀾万丈の若者時代が描かれている(この時点でまだアップル社は存在していない)。

そうした起伏に富んだジョブズの生きざまは活字だと伝わりにくい面もあるが、ヤマザキ氏はそれを得意の“漫画”で見事に表現する。掲載誌が女性コミック誌ということもあり技術面の描写は控えめにし、おもに「どんな人たちがジョブズの人格形成に関わったか?」を重点的に語っている印象だ。こうした点にフォーカスした時、やはり女性作家は強い。また、作者独特な温かみのある絵柄が読んでいて実に心地よい。『テルマエ・ロマエ』とずいぶん作風は違うが、この人にコミカライズを任せて正解だったと感じられる。

原作書籍を読んでいなくても特に問題はなく、むしろ未読の人にこそオススメかもしれない。コミックスの余剰ページにちょっとギャグじみた短編漫画があったり、巻末にヤマザキ氏のインタビューが載っていたりするので、ヤマザキファンにもお薦めだ。

【作品データ】
・作画:ヤマザキマリ 原作:ウォルター・アイザックソン
・出版社:講談社
・刊行状況:1巻まで(続刊)

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