永遠の夏がよみがえる――「まつもと泉初原画展“きまぐれオレンジ★ロード”」取材記【番外編】

ここでは「まつもと泉初原画展“きまぐれオレンジ★ロード”」取材記の番外編として、【前編】【後編】に書ききれなかった話や、記者が個人的におもしろいと感じた展示物を紹介していきたい。

■時代も国も超えて愛され続ける作品

会場内には来場者が自由にメッセージを書き込める「寄せ書き」が用意されている。取材時点でその数は7枚に達し、さらに増えそうな気配だった。


        (C)Izumi Matsumoto

 
ちょうどこれを熱心に書いている男性がいたので、お話を聞かせてもらった。男性の名前は韓 東憲(ハン・ドンホン)さん。韓国からの留学生で、来日3年目になる30歳。『きまぐれオレンジ★ロード』の大ファンだという。

 韓さんが本作に出会ったのは中学一年生のとき。韓国語版を友人から勧められたのがきっかけだった。翻訳された当時(1992年ごろ)は韓国でも『ドラゴンボール』『らんま1/2』『北斗の拳』などが人気だったが、学園コメディ・青春ドラマ作品はそれほど多くなかった。そうしたなかで『きまぐれオレンジ★ロード』は韓さんたち若者の心をつかんだのだ。このあたりは日本も韓国もよく事情が似ている。

その後、ゲームショップで偶然『きまぐれオレンジ★ロード』の音楽テープを購入した韓さん。日本語の意味がわからないまま何年間も毎日聴きつづけ、ついには歌詞を暗記してしまったそうだ。「おかげで留学するときも日本語の上達がはやかったです」と楽しげに語る韓さんの発音は、たしかに日本生まれの人とほとんど変わらない完璧なものだった。

ちなみに今回の原画展には、ゲームファンが集まる韓国のサイトで情報を知って訪れた。韓国のネット上で『きまぐれオレンジ★ロード』はいまだ高い人気を誇り、この作品を知らない世代にも“まずはこれを読んでおくべき”と多くの人が勧めるという。

このインタビューでもっとも印象的だったのは、記者が「あなたにとって『きまぐれオレンジ★ロード』とは何ですか?」と質問したときの回答だ。

韓さんは1秒もたたず“青春”と答え、少しおいてから“初恋”とつけ加えた。……これを聞いて皆さんはどう感じただろう? 人によっては2位以下に“あこがれ”などが入るかもしれないが、やはり日本のファンに同じ質問をしても“青春”がトップにくるのは間違いない気がする。国は違えど、作品世界からイメージする原風景は不変ということだ。

『きまぐれオレンジ★ロード』の人気は、もちろん韓国だけにとどまらない。

【前編】記事でも触れたとおり、今月17~19日にかけて台湾で「Edge Asia Fantastic Art Circus」が開催された。日本と台湾のクリエイターのよる合同展示会で、日本からは松本泉、高田明美、村田蓮爾、冬目景、okama(現地表記/パンフレット紹介順/敬称略)が参加。ご覧のように、本気を出せば一国の軍事力にも匹敵しそうな超豪華メンバーである。

→ [参考]作者公式サイトの日記(2010/09/22)
http://www.comic-on.co.jp/hidiary/hidiary.cgi?yyyy=2010&mm=09&dd=22

そんな実力派が揃うなか、マイクをもって歌うまどかさんが会場のポスターにひときわ大きく描かれ、海の向こうでも今なお衰えぬ知名度と評価をうかがわせた。“永遠の夏”をテーマにした世界観は、ほかの一流・新鋭クリエイター作品と並んでもまったく輝きを失っていない。

今回の「まつもと泉初原画展“きまぐれオレンジ★ロード”」取材は、そうしたことを再確認できるいい機会だった。このような拙文ですべての魅力を伝えきれるはずもないが、ともかく「びっくり箱」のようなイベントだと感じた。

この記事を最速で読まれた方は、10月3日の閉幕にまだ間に合うはずだ。時間的、地理的な制約もあるだろうが、ひとりでも多くのファンが原画展へ足を運んでくれることを願いたい。

■おまけ ―― 記者のおきにいり展示物

・その1 レアアイテム


        (C)Izumi Matsumoto

受付近くのケースに入っていた週刊少年ジャンプのカット集。『きまぐれオレンジ★ロード』連載前のまつもと先生は、編集部の依頼でこうしたカットも描いていた。絵柄は現在と違い、どことなくサンデー的な雰囲気も漂う。超レア資料だ。

・その2 オーパーツ


        (C)Izumi Matsumoto

記者が思わず鼻血を吹きかけた設定画。小さく「にゃんこまどか」と書かれている。信じられるかい、これ? ケモノ耳萌えがさけばれる現代から20年以上前のイラストだぜ……。

・その3 ノーコメント

アニメで鮎川まどかを演じた声優・鶴ひろみさんのお祝いコメント。途中までまじめだったのが、最後のあたりでカオスに。

 

【関連URL】
・まつもと泉 公式サイト「WAVE STUDIO Homepage」
http://www.comic-on.co.jp/

・[GoFa]  ウェブサイト
http://www.gofa.co.jp/
http://www.gofa.co.jp/art/100911_matumoto/index.shtml
(※原画展の詳細ページ。サイン会やじゃんけん大会の情報もこちら)

・Salon de Manga 公式サイト
http://manga-xvi.ficomic.com/
http://manga-xvi.ficomic.com/AUTORS/default.cfm(※ゲスト情報ページ)

・三五館
http://www.sangokan.com/
(※2010/09/28現在、まだ新作の情報は掲載されていない)

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