ちいさこべえ 2 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

古き良き時代への回帰『ちいさこべえ』の世界

ちいさこべえ 2 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL) 近年死語になった感さえある。「古き良き時代」というコトバを聞く機会がめっきり減ったのは間違いない。本作『ちいさこべえ』はそんな「古き良き時代」を感ずるには、格好の作品といえるだろう。

原作者の山本周五郎は、1920年代~60年代にかけて、日本の文壇の中心に立ち、直木賞史上唯一の授賞決定後の辞退者となったことでも知られ、1988年より新潮社により山本周五郎賞が発足した経緯も持つ、日本を代表する作家の1人だ。作画は『ドラゴンヘッド』で第21回講談社漫画賞、第4回手塚治虫文化賞をダブル受賞し、数多のヒット作と映像化作品を輩出してきた鬼才・望月ミネタロウ。

『ちいさこべえ』は、1962年に田坂具隆のもとで映画化、宝塚歌劇団による舞台化・NHKによるドラマ化も行われた作品だ。今回初の漫画化にあたり、時代設定を現代に変えた望月ミネタロウが「古き良き時代」の人情劇を現代の読者に訴えかける。

主人公の茂次は大工の若棟梁で、どこか“大正時代の父親”を思わせる頑固者。天才的な頭脳を持ち、放浪癖があるが大火事で両親も失ったことをキッカケに、両親が残した会社「大留」の再建を図る。誰の力も借りようととせず、頑なに自分の力のみで。

そんな中、同じく親を亡くした孤児達を引取り、両親のいない頑固者の20歳の美人りつと出会う。引き取り手のいない、心に傷を持つ子供達を一緒に育てていくことを決意するのだが……。“超”がつくほどの頑固者で意地っぱりの2人を中心に物語は、ゆったりと歩を進める。

本作を現代に時代設定したことに、作者のメッセージが見て取れる。そこには、未曾有の震災に襲われ復興に向けて毎日を懸命に生きる、現代の日本人の姿が重なる。「どんなに時代が変わっても人に大切なのは“人情”と“意地”」。今の私達こそ、この言葉の持つ含みを十二分に噛み締め、前を向いて歩き出す必要があるのかもしれない。そんなことをふと思った。

 
【作品データ】
原作・作画:山本周五郎/望月ミネタロウ
出版社:集英社
刊行状況・1巻まで(続刊)

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