【あらすじ・概要】
時代を先取りすぎたのかもしれない。現在ではそんな評価もできるようになった。1997年~2001年にヤングサンデーで連載された同作は、現在では絶版となっている。2010年にエンターブレインから大幅に加筆・修正・著者インタビューを追加した豪華版『真説 ザ・ワールド・イズ・マイン』は、発売3日目にして増刷決定し、2ヶ月で5刷という驚異的な売れ行きを見せた。
作中では、インターネットが重要なファクターを占め、9.11以前に同時多発テロを描くという作者の炯眼が見て取れる。主要人物である、モンちゃんとトシの二人組は都内の各所に消火器爆弾を設置するテロリスト。2人は北海道へ向かう最中、青森県で連続爆破、警察署襲撃、殺人代行、日本全土を震撼させる無差別殺戮を開始する。時を同じくして、謎の巨大生物「ヒグマドン」が出現し、同じく大量殺戮を行う。2つの“巨大な力”は互いを意識するようにして、磁石のように引き寄せられる。物語はアメリカ大統領すら巻き込み、全世界レベルで進行する。
やがて国際的なテロシストとなり、数多の熱狂的な支持者を集めるようになったモンちゃんは関東同時多発テロを引き起こし、海外へ脱出して世界のテロリストのカリスマとなっていく。「圧倒的な暴力」を軸に揺れ動く世界。そうして、世界は終わりを告げようとしていた。
【みどころ】
「命は平等に価値がない」モンちゃんの台詞は作中にキーワードのように散りばめられている。本作が世間に投げかけるメッセージは極めて辛辣で複雑なものといえる。
正体不明の謎の男モンちゃんは、殺す・犯す・盗むといった法律で行為を平気で行う。“暴力”そのものであったモンは、更に大きな“暴力”の具象化であるヒグマドンとの遭遇により生まれて初めて恐怖という感情が芽生え始めた。
作中では次第に正体不明のテロリストモンちゃんの出生が明らかになる。実はネグレクトされた子供であり、それ故に両親や社会から学ぶ筈だった道徳・倫理や、神に対する感謝・畏敬を欠いたまま成長してしまった存在である事が明らかになる。1990年代に起きた少年犯罪のバックグラウンドを反映しているかのように、モンちゃんの精神世界は描かれている。憧れであり畏怖すべき存在であったモンちゃんの目に見えた弱体化は、人間味をまだ残していた相棒トシの精神を助長させ積極的にトシが殺人を犯し始め、2人の間に溝が生まれていった。
トシが感じる、自分にはないモンちゃんのカリスマ性。元々郵便局に勤務する大人しく真面目な青年であったトシは、モンちゃんの存在によりリミッターが外れ、“爆弾”が自分の力という幻想を持ち虐殺を繰り返す。印象的なのは、トシが自ら手に掛けてきた被害者の遺族によって、生きたまま全身をメッタ刺しにされ、果ては足を切断されるという凄惨な最期を迎える場面。人間は当然神になれない。神になろうとした人に対する天罰のような描写が妙に生々しい。
一方で、世界的なテロリストになっていくモンちゃんは支持者に担ぎだされ、テロ行為を続ける。満たされない心の闇は、もう自分でコントロールできないまで大きくなっていた。呉智英、岩井俊二、松尾スズキ、庵野秀明等各界のクリエーター達に絶賛された作品の魅力は、コトバで伝えるのが極めて難しい。感じることの大切さ、を本作に教えられたことを昨日のことのように覚えている。安易だが全14巻をワイド版5冊にまとめた重量と厚みを、作品に投影しながら読み進めるのも正しい読み方なのかもしれない。
【作品データ】
・作者:新井英樹
・出版社:小学館
・刊行状況:全14巻
【作品データ】(リメイク版)
・出版社:エンターブレイン
・刊行状況:全5巻