第17回手塚治虫文化賞『キングダム』マンガ大賞受賞【その3】

 ■記念イベント~大賞受賞記念トーク~

大賞を受賞した『キングダム』の原泰久氏と永井豪氏、中野晴行氏による記念対談が行われた。一も二もなく『キングダム』推しだった中野氏が舵を取り、トークショーがスタートした。 中野氏が『キングダム』を読むきっかけとなったのは、生徒から「ヤンジャンならこのマンガ面白いよ」と紹介されたのが初めだという中野氏。壮大なストーリーに引き込まれ、慌ててバックナンバーを読み直したという。

永井氏は、最終選考に残った作品であったために、初めて『キングダム』を手に取ったという。「初めは29巻もあって大変だと思ったけれど、読み始めたら止まらなくなった。他の選考作品の印象が吹っ飛んでしまった」と語る。続いて、古代中国という歴史マンガでありながら、キャラクターにオリジナリティーがあって素晴らしいとコメント。かき分けのできないマンガ家が増えてきた中で、原氏のマンガは個性的でキャラが立っていると熱弁をふるった。

【質疑応答】

中野:ダイナミックな構図をどのようにして描いているんですか?

原:本当は、構図って苦手なんです。ネーム(絵コンテ)の段階が好きで一番自由に描けます。そのぶん、構図がいいと褒められると努力が報われたと思えて嬉しいですね。

中野:兵隊の数が多く描き込まれていますが、そこは手を抜こうとは思いませんでしたか?

原:リアリティーを出したくて手を抜きたくなかったんです。それがあって初めて、そこに生きる人々の激情が見る人に伝わると思っています。

原氏のコメントの中で特に印象的だったのは、次のコメントだ。

「僕は“絶対悪”というものを信じていないので描いていない。人には必ず争うための理由がある。根底には善意があって、それをぶつけ合っていると思っている」

ある意味では、平和な世で生きる人の理想論にも聞こえる。けれど、何かを創り出す側の人間は、理想や夢や自分哲学を持っていてほしい。……というのは記者の意見だが、きっとそういうものがなければ、どんな分野でも“いい作品”は生まれない。

原氏が書き下ろしたパネルを見ながら話を進める3人。「脇役がよくないとマンガは面白くない」と語る永井氏に対し、中野氏が“王騎将軍”のキャラのよさを口にした。原氏いわく、王騎はもともと偉大な人物になる予定のなかったキャラだという。天下の大将軍ではあるものの、歴史には死について記されているだけで詳細は何も残っていないそうだ。「王騎将軍の副官もいい」と言った中野氏に対して、原氏は「色ものには色ものかな、と思った」と会場の笑いを誘った。

信のみならず王騎将軍や貂など、どのキャラクターもストーリーが壮大になっていくにつれて、勝手に成長していくと話す原氏。これまで多くの大作、ヒット作を生み出してきた永井氏もマンガを描く時は同じ感覚を持つと話す。また、原氏は自分のマンガを描きながら感情移入して泣くこともあるという。永井氏もまた、「面白いマンガはそうした感情のエネルギーから生まれる」と賛同した。

“秦の始皇帝”といえば、歴史上でこれほど悪名高い人もいない。しかし、『キングダム』で描かれる嬴政は賢帝となるであろう、英知溢れる人柄だ。それについて中野氏が突っ込んだところ、原氏は「中華統一という偉業を成し遂げた人には、きっと政のような一面もあったと思っている。僕は名君として始皇帝を描いていく。でも、秦の世が長く続かなかったことも答えだと思う」と今後の方向性についても示唆した。

終始会話が途切れることなく、和やかな雰囲気でトークショーは終了した。新緑の爽やかな風が吹き抜けたような、清々しい余韻の残る贈呈式だった。

【関連URL】
・週刊ヤングジャンプ公式サイト『キングダム』
http://youngjump.jp/manga/kingdom/

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