続く贈呈式では、最初に『キングダム』作者の原泰久氏が登壇した。作品の壮大で重厚なストーリーとは裏腹に、原氏は現代的な好青年だ。受け答えもしっかりしていて、新星のマンガ家には珍しく、あまり緊張した雰囲気は見られない。原氏は『キングダム』のテーマは「受け継ぐ」だと言った上で、「主人公・信がたくさんの人と出会って何かを受け取り、それによって成長した信がまた自分以外の誰かに受け継いでいく。そのつながりこそが、人の歴史だと思っている」と語った。作品の中に脈々と流れるその熱き想いこそが、人の心を惹きつけてやまないのだろう。そして、「僕もまた手塚先生の意思を受け継ぐ者として、ずっとマンガを書いていきたい」と今後への意気込みを見せた。
その後、音楽ユニット「いきものがかり」水野良樹氏からのビデオレターが公開された。水野氏はライブに原氏を招くほどの熱烈な『キングダム』ファンだという。映像の中で水野氏は、「毎週楽しみに読んでいたマンガが、手塚治虫文化賞を受賞し、世の中に広く伝わっていくことをとても嬉しく思う」とコメントした。
次に、新星賞に選ばれた『Sunny Sunny Ann!』の作者・山本美希氏が壇上にあがった。山本氏は「まだこの先どんな人生を歩んでいけるかわからないけれど、今回の受賞を励みに自分の道を切り拓いていきたい」と語った。感極まっての涙声が、列席者の心へ言葉に表せない想いの大きさを伝えた。
司会者からの「マンガを描くにあたって、影響を受けたマンガ、絵画などはあるか」という質問に対しては、「女性のマンガ家が描いているマンガ全般に影響を受けている」と自分のルーツを明かした。子どもの頃、唯一読むのを許されていたマンガが手塚治虫氏の『ブラックジャック』だという山本氏。成長して自由に読めるようになった様々なマンガから、女性的視点をより強く感じ取ったのは、押さえ込まれていた感性の反動かもしれない。また、自由で強い女性を主人公に据えた理由を訊かれると、「当時の私は進路に悩んでいたため、小さなことに動じない強い女性を描きたかった」と語った。
続いて、短編賞に選ばれた『機械仕掛けの愛』の作者・業田良家氏が壇上に姿を見せた。業田氏は気さくな雰囲気を持つ、まさにナイスミドル。デビューから30年マンガを描いていて、初めて賞を取ったという業田氏は「賞の重みを感じている」と言った後で、賞状贈呈時の自分の行動に対して「だからつい早く賞状をもらおうとしてしまって」と会場を湧かした。本賞の受賞に対しては、「手塚先生に直接褒められたような気がしている」と満足気な笑顔を浮かべた。
質疑応答で、社会や人間そのものを描く作風にしたきっかけについて質問されると「社会的なマンガを描くきっかけとなったのは、僕が中学の頃に流行っていたフォークソングの影響が大きいと思う」と答えた。「ロボットを通して人間の心情を表現しようと思ったきっかけは?」という質問には、「ロボットなら端的にその心情を表せる、伝えたいことを強烈に読者の心に残せるのではと思った」と製作秘話を語った。中でも業田氏自身が一番気に入っているのは『罪と罰の匣』という作品で、ロボット刑事が貧しい人たちのために偽札を作って逮捕され、罰として最後は虫にされてしまう話だという。人情と哀愁を漂わせた作風は、手塚氏のマンガにも大いに影響されているそうだ。
→ 第17回手塚治虫文化賞『キングダム』マンガ大賞受賞【その3】につづく
【関連URL】
・週刊ヤングジャンプ公式サイト『キングダム』
http://youngjump.jp/manga/kingdom/