2013年5月31日(金)、浜離宮朝日ホールにて第17回手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)の贈呈式が行われた。今年のマンガ大賞は、NHKのアニメにも抜擢された『キングダム』(原泰久)が受賞。新生賞は『Sunny Sunny Ann!』(山本美希)、短編賞には『機械仕掛けの愛』(業田良家)が選ばれた。
本賞は、2012年に刊行されたマンガ単行本を対象とし、書店員などを含めたマンガ関係者からの推薦を参考に受賞作品を選出する。8人の選考委員がそれぞれ15点を持ち、最高点を5点(最高点をつけられるのは一作品のみ)とし、配点していく。17回目となる手塚治虫文化賞では、一次選考対象30作品の中から上位7作品が最終選考に残った。
【選考委員】
●あさのあつこ/作家
●竹宮惠子/マンガ家・京都精華大学マンガ学部教授
●中条省平/学習院大学文学部教授
●永井豪/マンガ家
●中野晴行/マンガ編集者
●ブルボン小林/コラムニスト
●ジャクリーヌ・ベルント/京都精華大学マンガ学部教授
●ヤマダトモコ/マンガ研究者
【マンガ大賞ノミネート作品】一次選考結果
1. 『3月のライオン』(羽海野チカ、白泉社) =11点(ヤマダ5、竹宮3、永井3)
2. 『I【アイ】』(いがらしみきお、小学館) =9点(ベルント5、中条4)
3. 『羊の木』(原作・山上たつひこ/作画・いがらしみきお、講談社) =9点(中条5、ベルント4)
4. 『銀の匙 Silver Spoon』(荒川弘、小学館) =6点(あさの4、中野2)
4. 『昭和元禄落語心中』(雲田はるこ、講談社) =6点(あさの3、竹宮3)
4. 『ハイスコアガール』(押切蓮介、スクウェア・エニックス) =6点(竹宮3、ブルボン3)
7. 『キングダム』(原泰久、集英社) =5点(中野5)
■贈呈式リポート
第17回手塚治虫文化賞の贈呈式は、会場時間より早くから列席者の列が作られ、活気ある雰囲気の中で開幕した。
最初に祝辞を述べた手塚治虫氏の息子・手塚眞氏は、「手塚治虫は生前、言語がわからなくても絵で意味を伝えられるマンガは国際語であると申していた」と前述した上で、「今年の受賞作は、国際的な視点を感じずにはいられない」と話した。『キングダム』は古代中国、『Sunny Sunny Ann!』はアメリカの片田舎の風景、『機械仕掛けの愛』は架空の日本、読んで字のごとくどれも主人公は日本人ではない。眞氏は、「知らないものを描ける日本マンガ家のクオリティの高さ、また日本人読み手の感性の豊かさ」は諸外国にはない感性だと熱弁。中国で古代日本のマンガが描かれる可能性や、アメリカで日本の片田舎マンガが読まれる可能性、ロボットの人情“メカ情”が描かれる可能性はまだまだ少ないと語る眞氏の言葉に、改めて“日本のマンガ”界の広さを感じた。
マンガと国際意識を結びつけて考えられる柔軟性は、さすが治虫氏の息子だ。眞氏は「受賞した3作品を含む日本マンガには、日本人の考え方をおおらかにしっかりと世界に発信していける力があると思っている」と祝辞を締めくくった。
続いて、選考委員のブルボン小林氏によって選考経過報告がされた。コラムニストらしい刺激的な語り口は耳に心地いい。 第一次選考結果では、『キングダム』は最終選考対象作品の中で最下位、それも中野氏による推薦のみで勝ち上がってきた完全なるダークホースだった。小林氏は「他の作品は、推す人も否定する人も作品に対する強い気持ちがあって、話し合いが白熱したバトルに発展した。『キングダム』では、褒めるにせよ欠点をあげるにせよ、おだやかな雰囲気で話し合いができた」と選考議論の様子を振り返り、「『キングダム』案外いいんじゃない? という話になっていった」と会場の笑いを誘った。大賞、新生賞、短編賞に選ばれた3作品は、マンガ自体にチャーム(人を魅了する力)があり、欠点を欠点に感じさせない遊び心があると小林氏は言う。今ではすっかり『キングダム』のファンになったと語る小林氏は、「仕舞いには、最初から『キングダム』を推していたような顔をしていた」とオチをつけた。
新生賞と短編賞は大賞と違い、選考委員が推す作品を一作品、直接終選考に申し込む。そこから“ガチンコバトルロイヤル”が始まると話す小林氏。最終的に2作品が選ばれた理由を「推薦された作品はどれも甲乙つけがたかったが、ほんのちょっとの“愛嬌”の差が明暗をわけた」と受賞者へ讃辞を送った。
→ 第17回手塚治虫文化賞『キングダム』マンガ大賞受賞【その2】につづく
【関連URL】
・週刊ヤングジャンプ公式サイト『キングダム』
http://youngjump.jp/manga/kingdom/