連載「魔法少女の系譜」、第4回は『魔法のスターマジカルエミ』です。
第1回『魔法少女ララベル』はこちら
第2回『魔法の天使クリィミーマミ』はこちら
第3回『魔法の妖精ペルシャ』はこちら
【作品紹介】
こてまり台に住む香月舞(かづき・まい)は、マジック団「マジカラット」団長の孫娘。伝説のマジシャン、エミリー・ハウエルのようになりたいと夢見ていた。 祖父たちの引っ越しを手伝っていた中、舞は妖精トポに出会い、魔法の力をもらう。舞は、魔法を使って天才マジシャン「マジカルエミ」に変身し、マジカラットの舞台に立つ。その舞台を見ていたTVプロデューサーの小金井に見出されて、アイドルとしてデビュー。一躍スターとなった舞だったが…
【作品考察】
『マジカルエミ』の主人公・舞はマジシャンを夢見る女の子。しかし、不器用で、初歩的なマジックをこなすのにも一苦労。 魔法の力を手に入れた舞は、自らの理想ともいうべき、スーパーマジシャン「マジカルエミ」に変身できるようになり、華麗なマジックを披露。合わせてアイドルとしてデビューを飾り、その美貌と歌声で人気者となります。
しかし、この舞の変身には一つ、落とし穴があります。
マジカルエミのマジックは、種も仕掛けもない「魔法」であるということ。
作品の終盤、このことが、舞の心を揺さぶります。
エミリー・ハウエルの名にちなんだ「エミリー賞」というマジシャンたちの大会が開催。
マジカラットの若い団員たちは、猛特訓をして「ヤングマジカラット」として大会に挑み、見事審査員特別奨励賞を獲得。そして、マジカルエミは大賞に輝きます。
しかし、受賞がわかったとき、マジカルエミに喜びの笑顔はありませでした。
精一杯の努力で特別賞を勝ちとったヤングマジカラットの面々。
一方、いつもどおり魔法を使って何の苦労もせずに大賞を手に入れたエミ。
団員たちと自分の違いに、舞は気が付いてしまうのです。
このことをきっかけに舞はエミに変身して、魔法でマジックを軽々こなすと、舞のままで苦労しながらマジックをこなすのは、まったくの別物であることを、実感していきます。
そして、最終的に舞はある決断をします。
それは、彼女のマジシャンへの夢が単なる憧れから志へと変わり始めていったという彼女の成長のあかしでもあるのです。
魔法少女シリーズの中でも、名作として名高い『マジカルエミ』ですが、魔法を使っての冒険活劇だけにとどまらず、主人公・舞を始め、彼女を取り巻く人々の心情が、きめ細やかに描かれたのが、この作品の特徴。
魔法の要素を話の中心に置かずに展開された話数も多く、非常に情緒のあるストーリーが流れていった『マジカルエミ』は、『魔法少女ララベル』の頃からはじまった生活感のある魔法少女物語の一つの完成形といえるでしょう。
テレビアニメが終了後、『蝉時雨』(せみしぐれ)というタイトルのOVAがリリースされていますが、こちらの作品でも、魔法の要素は最低限しか登場せず、舞や他の登場人物たちがすごす夏のとある一日を淡々と描いた情緒あふれる作品となっています。
【マジカルエミと漫画】
『魔法のスターマジカルエミ』では、舞の恋の相手となったのは、舞の祖父母の家に居候する高校生の結城将。
マジシャンの両親から仕込まれたよい腕を持ちながら、マジックを嫌う彼はボクシングに熱中し、口下手で無愛想。しかし、マジカルエミの華麗なマジックを目にしたり、舞をはじめとする周りの人たちとの交流の中で、少しずつ心を開いていきます。
ただ、アニメの方では、舞と将の関係は恋愛と呼べるものに発展することはありませんでした。
しかし、アニメ放映時に連動して雑誌「ちゃお」で連載されていたコミカライズ版『マジカルエミ』(あらいきよこ)では、舞と将の恋愛により重点が置かれた展開となっています。
将と憎まれ口をたたきあいながらも、少しずつ惹かれていく舞。しかし、将は舞が変身したマジカルエミが気になっています。
そして、漫画のオリジナルキャラクターとして、将に熱を上げるなぎさという女性が登場。舞のライバルとなり、恋模様はアニメのそれよりも複雑に展開しました。
漫画版では、なぎさに焼きもちを焼いたり、エミを想う将の目つきが自分に対するそれとは違うことに寂しさを覚えたりと、アニメとは違う切ない顔の舞が描かれており、これは、アニメとはまた違う『マジカルエミ』の物語と見たほうがよさそうです。