コンプレックスからはじまる恋愛の物語『青に、ふれる』

「十人十色」という言葉があります。好み・考え・性格などは、人によってそれぞれ違うことのたとえに使われる言葉です。悩みも同じで、身体的特徴で悩む人がいる一方で、一見悩む必要もなさそうなことで悩む人もいます。

身体に現れる特徴であれ、現れにくいものであれ、さまざまなことで悩みを持つものです。今回紹介する鈴木望先生の『青に、ふれる』では、顔にアザのある女子高生と相貌失認の教師を中心とした、コンプレックスとそこにある恋愛を描いています。

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【『青に、ふれる』とは?】

本作の主人公は、「太田母斑」という青いアザがある女子高生の青山瑠璃子。

「太田母斑」とは、主に目の周辺や頬、耳介など顔に出現し、生後半年~思春期にかけて色が濃くなったり、新しい色素斑が出てくることが多い青アザです(出典:日本皮膚科学会)。

瑠璃子の場合も、左眼周辺に見られます。このアザにコンプレックスを持っていることもあり、自身も気にしすぎないよう、周囲にも気を遣われないよう生きてきました。

「あなたは自分の顔が好きですか?」という言葉が冒頭に出てきて、家族が学校・会社に行く朝の日常からはじまる本作。2年生に進級後、4組の担任教師となる神田野光(ひろあき)と出会います。

あるとき、瑠璃子は担任でもある神田の秘密を知ることに。神田が落とした手帳を拾ったことがきっかけで、そこには生徒の特徴がビッシリと書き込まれていたのです。しかし、自分のところには何も書き込まれていません。

そのことに腹を立て、神田に「『顔に大きなアザがある』と書けばいい」と、一方的に責め立てる瑠璃子。しかし、神田には青い何かがあるとしかわからず、顔はまったく認識されていませんでした。

それもそのはず、相貌失認(人を判別できない症状)だったのです。

しかし、神田は「相貌失認によって特別扱いされたくない」と言い切ります。それと同時に、顔に青いアザのある瑠璃子のことも、一切特別扱いしません。

そんな神田の姿勢に、瑠璃子はどんどん惹かれていき……

コンプレックスをきっかけにはじまった恋を描く、青春ラブストーリーです。

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【見どころ】

本作の見どころは、瑠璃子の成長です。

ずっと自分自身が気にしないよう、周囲にも気を遣わせないようにと生きてきた中、神田との出会いによって自分の本当の気持ちにも向き合っていきます。その中で、気持ちが揺れ動きながらも自分の気持ちに正直に、かつ一生懸命に生きているのです。

ちなみに、太田母斑そのものはレーザー治療で完全に取ることができます。作内では、あえて瑠璃子がレーザーを選ばない理由、神田が相貌失認でどのような経験をしてきたのかが明らかに。このあたりの見た目や障害による困難をどのように解決したかも、本作の見どころといえるでしょう。

それと同時に、メイン人物の瑠璃子と神田以外の悩みに光を当てている、作者の姿勢にも好感が持てます。

たとえば、美人教師の白河先生。とても美人で、一見悩みらしい悩みを持っていないように見えるキャラクターです。しかし、白川先生には「ただ美人なだけで、私には何もない」という悩みがあります。

まさに人の数だけ悩みもあるわけです。しかし、世間では社会的地位にある人の悩みは見過ごされがちで、貧困や生育環境などの関係で弱い立場にいる人の悩みがクローズアップされる傾向にあります。

さまざまな悩みを持つ人たちが前向きに向き合っていく。その中で周囲にいる友達、先生がかける言葉に考えさせられると同時に、障害や悩みというセンシティブで表現しにくい心理描写に迫る作者の姿勢が、読むものを惹きつける作品です。

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【作品データ】
・作者:鈴木望
・出版社:双葉社
Webアクションで試し読みできます
・刊行状況:全7巻