産婦人科の光と影を描く『透明なゆりかご 産婦人科医院 看護師見習い日記』

医師が標榜できる診療科目の基本領域は、全部で19科目あります(出典:ドクタービジョン)。その中で、妊娠後出産する人の検査・治療などを行い、新しい生命の誕生などに立ち会う診療科が産婦人科です。

女性にとっては身近な診療科でありながら、なかなか産婦人科内部の様子を知る機会は少ないもの。そこで、今回は沖田×華先生の『透明なゆりかご 産婦人科医院 看護師見習い日記(以下『透明なゆりかご』)』を紹介します。本作は、第42回講談社漫画賞少女部門で受賞。20~30代の女性の共感を集め、2018年にはNHKで連続ドラマ化されました。

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【あらすじ】

1997年当時のとある町にあるごく普通の産婦人科医院にて、看護師見習いとして勤務する×華ちゃん(作者自身)が本作の主人公。作者自身が実際に勤務していたときの実体験が元となっています。

産婦人科と聞いて「出産など新しい生命の誕生に携わる場所」というイメージを持つ人も多いでしょう。しかし、実際は人工妊娠中絶(アウス)により、消えていく命に向き合う機会も多いのです。

こうした経験により「生まれる命の重さや大切さを知った」実体験を元に、産婦人科の残酷な現実や母性について、1話完結で描いたオムニバスマンガです。

本当は存在していたのに認識されることのない「中絶胎児たちの命」。その「存在が透けているような不安定感、不透明感」をイメージしてつけた、仮タイトルの『透明なゆりかご』がそのままタイトルになりました。

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【見どころ】

産婦人科に通院するのは、幸せな結婚をした後に妊娠・出産を控えた夫婦とは限りません。DV・性的虐待・浮気・不倫などの理由により、望まない妊娠となってしまう人も少なからずいるのが現実です。

妊娠・出産をテーマにした医療マンガでは「さまざまな困難があっても、無事に出産できて良かった」というエンディングになることがよくあります。

出産そのものはおめでたいことなので、それはいいことです。しかし、出産できない事情のある人たちにとって、産婦人科はおめでたいはずの新しい命を閉ざす場所でもあります。

DV・性的虐待・浮気・不倫などによる妊娠中絶にも焦点を当て、産婦人科の光と影について主人公である作者自身の目線で描ききっている点は、高く評価できるポイントでしょう。

連載開始直後から大きな注目を集め、2018年7月には『透明なゆりかご』というタイトルで、NHK総合の「ドラマ10」枠にて清原果耶さん主演でドラマ化。こちらも大きな話題となりました。

妊娠・出産という重たいテーマを扱っていることもあり、毎回胸を締めつけられると同時に、寄り添ってもらえている感もある作品です。ドラマと合わせて、読んでみてはいかがでしょうか。

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【作品データ】
・作者:沖田×華
・出版社:講談社(KC KISS)
コミックDAYSにて試し読みできます
・刊行状況:全9巻