動物マンガの原点!佐々木倫子先生のセンスが光る名作『動物のお医者さん』

一般社団法人ペットフード協会によると、2020年からのコロナ禍において「日常生活の安らぎを求める」などの理由で、ペットを飼うことを検討している人がいます。その一方で、MOFFMEの調査では1割強の人が飼育放棄の決断をしているという結果が出ていることも、見逃せない事実です。

ペットが病気になった際、飼い主がかかるのが獣医師のいる動物病院。獣医師は、いわゆるペットの診察・治療の他、豚や牛、ヤギなどの産業動物の衛生管理にも携わる責任の大きい職業です。そんな獣医師を目指す学生の日常を描いたマンガとして、佐々木倫子先生の『動物のお医者さん』を紹介します。

もともとは「花とゆめ」で連載されており、コミックスの累計発行部数は合計で2,160万部超え。2024年1月からは、小学館より新装版として毎月1巻ずつ刊行中です(全12巻)。

【『動物のお医者さん』とは?】

本作の舞台は、北海道にあるH大学獣医学部。獣医学部3年の西野公輝(以下、ハムテル)が主人公です。

正しい読み方は「まさき」。しかし、友人からは本名を分解して「ハムテル」、祖母からは「きみてる」と呼ばれており、めったに本名で呼ばれることはありません。

高校3年生のハムテルと二階堂昭夫が、近道するためにH大獣医学部の敷地内を歩いていたところから物語がスタート。そこで出会ったのが、険しい顔をしたメスのシベリアンハスキー、子犬のチョビでした。

その子犬は獣医学部の解剖実習室を抜け出しており、やがて漆原教授が捕獲。ハムテルを見て「良い飼い主になる」と思った教授は、すかさず「キミは将来、獣医になる!」と宣言され、飼い主を押しつけられます。

もともと獣医学部志望でしたが、診察に手間取る教授を見て「買っている動物たちの治療費が浮く」と思い、当初の希望どおり獣医学部に進学。獣医を目指した学生生活がはじまりました。

本作は、ハムテルと周囲の学生・教授・動物たちの日常を、コメディタッチで描いた医療マンガです。

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【本作の見どころ】

見どころは3つあります。

1.登場人物および動物たちの個性

ひとつ目は、登場人物および動物たちの個性について紹介しましょう。

ハムテルに「獣医になる」と予言した漆原教授は、何かというと「カシオミニをかける」が口癖です。その他に、同級生の二階堂はネズミ嫌い。祖母にいたっては、自分の身内なのに「きみてる」と呼んでいます。

動物も健気なメス犬・チョビ、暴君のピヨちゃんなど、キャラクターの個性が強いので、読んでいるだけで癖になりそうです。

2.コメディタッチとシリアスタッチの両立

基本的には、主人公のハムテルと周囲の学生・教授・動物たちとのやり取りが中心の、コメディタッチの本作。しかし、その一方で動物について知って置かなければならないところにも触れられています。

一例をあげると、動物の習性・かかりやすい病気・接する時の注意点などです。「動物を飼いたい」と考えている人にとっては、有益な情報になるでしょう。

3.動物の写実的な描写

本作で出てくる動物は、みんな写実的に描かれています。あまりにリアル感が強すぎると、逆に怖く感じる人もいそうですが、考えていること・思っていることが明朝体で書かれており、そのバランスの良さにも人気が集まっています。

先にも触れたとおり、本作は白泉社の「花とゆめ」にて1988~93年にかけて連載。H大獣医学部のモデルとなった、北海道大学獣医学部の志願者増加は大きな社会現象となりました。

また、ちょっと怖そうな顔立ちと、温厚な性格とのギャップで人気だったチョビ。チョビはシベリアン・ハスキーですが、同犬種の人気が高まり、飼う人が増加したことも社会現象でした。

しかし、成長すると小柄な女性並みに成長するので、飼育が難しくなると飼育放棄する人が続出するなど、マイナスの減少も生み出したのです。

今一度、動物を飼うことの重みを知るためにも、本作をおすすめします。

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【作品データ】
・作者:佐々木倫子
・出版社:小学館
小学館eコミックストアで試し読みできます
・刊行状況:既刊6巻(新装版、以下続刊)
※2024年1月より、毎月1巻ずつ刊行(全12巻)