ネガティブ女性なりの人生の進め方を描いた話題作『まじめな会社員』

社会人になり働き続けているうちに、仕事や恋愛、生き方について葛藤した経験は誰にでもあるでしょう。「何者かになりたい」と思ううちにすべてが空回りしてしまい、何者にもなれない無力感を味わい現実に気づいていきます。

そんな女性が描かれている作品こそ、今回ご紹介する冬野梅子先生の『まじめな会社員』です。本作は、2022年の「第一回 CREA夜ふかしマンガ大賞」(文藝春秋)第1位、「このマンガがすごい!2023 女編」(宝島社)第3位を受賞して話題になりました。

主人公は、誰かの特別でありたいのにそのようになりきれないアラサー女子を描いた、デビュー作の『普通の人でいいのに!』に引き続いて菊地あみ子。彼女はどこにでもいそうな東北地方出身の契約社員で、30歳の独身女性。彼氏いない歴5年です。

人とは違った生き方、個性を活かして仕事をしたいと思い、クリエイティブ界隈に憧れるものの、なかなかそちら側には入れずに悶々とする日々を送っています。

2020年から2023年第1四半期にかけて約3年の間、全世界の人たちに降りかかったコロナ禍。それによって、誰もが外出自粛やテレワーク、お家時間の増加などにより新しい生き方を模索せざるを得ない状況に陥りました。

その中で、多くの人が新種の孤独に陥るとともに、新しい人生の楽しみを見つけていきます。

本作の魅力は、なんといっても30代女性の等身大を描ききっている点です。「こういう人はたしかによくいるけど、こうはなりたくないかな」と思っている人物像は、誰しもが心のなかに持っているでしょう。

「一見普通に見えるけれど、何かと面倒くさくて性格の悪そうな人」とも言い換えられますが、そういうタイプの人は確かに存在します。

その心理的な動きを丁寧に描いている点で、好感が持てる作品です。

【作品データ】
・作者:冬野梅子
・出版社:講談社※COMIC DAYSで閲覧可能
・刊行状況:全4巻