愛を知らない『カイル』と感情ある人間の行方は?!

人間が繁殖する時は、少なくとも愛情というものがどこかに介在する。
しかし今回ご紹介する『カイル』に登場する、海婁(カイル)と呼ばれる半人半海洋の生物には、そのような感情は存在しない。ただ子孫を増やすためだけに人間の女性を襲い、子孫を産ませて子らの餌にするのだ。

そんな衝撃的な設定の本作には「パイン」「セヴン」「カイル」「マサキ」「シグル」という5人のカイルを巡る物語が連作という形で収録されている。それぞれの名前を冠したカイルたちが、人間の女性と出会って変わっていく様子が描かれる。

本来は多数の脚の生えたウミウシのような姿をしているカイルは、人間の前に現れる時だけヒト型の美しい男性の形になる。イケメンが好きな、性格のあまり良くない女性が犠牲になるのはお決まりだ。
しかし、海に惹かれる普通の少女や、海を愛する女性など、カイルと特別な関係を結ぶ相手にはある共通点があった。その謎が解かれていくのも、この作品の見どころの一つと言えるだろう。

愛を知らないカイルたちと、彼らを愛する人間の女性たち。
その間には越えられない一線があり、カイルたちを戸惑わせる。
それでも自分の進む道を選ぶカイルたちに、思わず涙する場面があるかもしれない。

海にはまだ解き明かされていない謎が多くある。「カイル」は創作上の生き物だが、そんな種がいないとも断言したくない気持ちになるのだ。
ロマンや哀愁がある海の物語は、日頃海に縁のない場所に住む人々の胸をも打つ。それは人間もかつては海からやってきたと言われているせいだろうか?

命や愛情、生存や死をテーマにした物語は多いだろう。しかし本作は、一見ホラータッチな部分もありつつ、カイルや人間の感情をきめ細やかに描き出しているところが興味深い。
異種間の愛情は成り立つのか? 愛する者のために生死のどちらを選ぶのか? さまざまな問いを読者に投げかけつつ、心にじんわりと潤いを与えてくれる作品だ。

【作品データ】
・作者:森左智
・出版社:ぶんか社
・刊行状況:全1巻