当て屋の椿 1 (ジェッツコミックス)

『当て屋の椿』咲くは理屈か情念か?猟奇・怪奇の推理劇が花開く!

当て屋の椿 1 (ジェッツコミックス)

【あらすじ】
時は江戸の世。売れない絵師・鳳仙は、ある事件がきっかけで、椿と名乗る奇妙な美女と出会う。何でも探し当てる『当て屋』を生業とする彼女は、持ち前の頭脳と知識、そして『吉原の巫女』と呼ばれる女郎・篝の力を借りて、数々の事件に隠された真実を探り出していく。「どんな理屈が咲くのか楽しみだねェ」――椿が理屈の花を咲かせるたびに、事件に隠された謎が解かれる! 

【みどころ】
コミックの世界でも一ジャンルを築いている『時代劇』。その中でも今回は『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の『当て屋の椿』を取り上げ、その魅力に迫ってみたいと思います。

コミックス売上累計50万部を誇る本作は、時代劇作品の中でも、いわゆる推理物と呼ばれるものです。主人公である謎の美女・椿は、「当て屋」という一見奇妙な商売を営んでいます。客の失せ物を探し当てる方法として、足を使うのではなく、理屈を立てて真実を見つけ出すから「当て屋」。しかも、彼女が探り当てる「失せ物」は、必ずしも目に見えるモノとは限りません。忘れ去られた過去に潜む因縁であり、秘密の奥に隠された誰かの叫びでもあります。

一方、椿に振り回される相方には、絵師の鳳仙が登場します。本職の山水画では鳴かず飛ばずで、生計のために春画(男女の情交の様子を描いた絵)を描いているが、実は生粋の女嫌いという、そこはかとなくトホホな雰囲気が漂う青年です。世に認められぬ紙屑絵師の鬱屈と、女性の心を開く人のよさを合わせ持つ鳳仙は、心の闇が生み出す事件の狂言回しには、この上なくふさわしい人物といえるでしょう。

事件に巻き込まれるたび、鳳仙は行く先々で出会う人々と交流を深め、感情移入してしまいます。彼が持つそのやさしさは、時に、事件の真相に気づくのを遅らせることもあります。自分の無力に歯がみしながら、事件に関わる人々の心を救おうと奔走する鳳仙。その姿は、加害者の妄執や怨念を、容赦ない「理屈」でむき出しにしていく椿とは真逆の在り方を読者に突きつけます。「情け」と「理屈」、相反する一組の男女は、それぞれの方法で事件を収束させていくのです。

ただ、本作は時代物漫画として見れば、随所に現代的要素と時代考証の甘さが目立ち、年季の入った時代劇オタク(筆者)には、多少、物足りない部分も多々あります。しかし、違和感や細かいつっこみが多少あっても、本作の魅力がかすむことは、まったくありません。この漫画の魅力は、椿や鳳仙、事件の当事者であるゲストキャラクターを含めた人物の喜怒哀楽や個性がしっかり描かれていることと、毎回、救いのあるラストによる爽やかな読後感にもあるのですから。

今のところ、筆者が本作で一番気になっているのは、椿の正体。いったい彼女は何者なのか?どこから来たのか?――その答えとなる部分が、現時点ではさわりしか提示されていないのが歯がゆいところ。彼女は謎のままであり続けるなのか、それとも、巻が進むにつれて徐々に全貌が明かされていくのか?その答えを知るには、今後も作品を読んでいくしかなさそうです。

【作品データ】
・作者:川下寛次
・出版社:白泉社
・刊行状況:5巻まで(続刊)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。