【あらすじ】
〝帝国〟対〝共和国〟――民の全てを苦しめた悲壮な戦争終結から3年。終戦が呼んだ風は世界の幸福では無かった。民は悪化の一途を辿る治安・景気に苦しめられ、軍人もまた戦いの無い世界に順応できずにいた。
そんな中、帝国は軍の体裁のため陸軍情報部第3課戦災復興支援部隊「パンプキン・シザーズ」を発足させる。しかし大義名分だけを整えられた部隊は、軍の中で〝おちこぼれ〟の烙印を押されていた。――そう言われるなら、おちこぼれだってお気楽だっていい。「苦しむ民を見て貪る悪を見て、貴様は何も感じていないのか?」真っ直ぐに前だけを見る隊長に、戦いの中でしか生きられなかったランデル・オーランド伍長は生きる光を見いだす。
【みどころ】
戦争と命をテーマにしているため、作風はやや暗めです。けれど、重くなりすぎないテンポの良さがある作品でもあります。思わず笑ってしまう場面もあり、作品の本筋とのギャップに人間味を感じずにはいられません。登場人物にうっかり愛着がわいてしまったら、もう作品の虜になっている証拠でしょう。架空の世界ながら、第一次世界大戦前後がモデルとなっており、世界観の深み・安定度は折り紙付き。時代が移り変わる時には必ず対面する混乱が鮮明に描かれています。その鮮明さは、戦後の日本の姿であり、現在も続く世界の戦災の姿なのかもしれません。
「お前たち軍人や貴族は、俺たちが明日の食べ物を死ぬ気で奪い合っている中、いい服着ていい物食べてパーティーに明け暮れてやがる。殺してやんなきゃ気が収まらねぇ」…貧しさで妻も息子も失い、貴族に対する武装蜂起を企てた男の言葉は、この世の不条理すべてに通ずるものを感じます。お金も物も、無いところから有るところへ流れる――そんな現実はきっと、現代社会の中にも潜んでいると思うのです。繰り返される時代は、何も〝戦争〟という形をしているとは限らないのかもしれませんね。
作品もいいよいよ佳境に入り、謎が少しずつ浮き彫りにされてきました。あっちにこっちに心を砕く「パンプキン・シザーズ」面々の「硬い外皮に覆われた、社会に蔓延する欺瞞を切り裂く」心の刃はどんな〝戦災復興〟を成し遂げていくのでしょうか。刊行ペースがゆっくりなのはたまにキズですが、一度は読んでいただきたい作品です。
なお、テレビアニメ版は全24話で完結していますが、もっと世界観に浸りたい方にはおすすめです。特に戦闘シーンの臨場感には、鳥肌が立ちますよ。
【作品データ】
・作者:岩永亮太郎
・出版社:講談社
・刊行状況:15巻(続刊)
【関連URL】
・月刊少年マガジンWeb『Pumpkin Scissors』作品紹介
http://kc.kodansha.co.jp/content/top.php/1000002372