愛と追憶と筋肉がおりなす超パワーの怪作!『鉄人ガンマ』

漫画大国と言われるほど膨大なコンテンツをもつ日本。名作やヒット作は数あるが、「怪作」と評されるタイトルは意外に少ない。そこで今回は平成初期に生まれた正真正銘の怪作『鉄人ガンマ』をご紹介したい。

主人公の丸麻 照男(がんま てるお=通称ガンマ)は、スーパーの精肉部に勤務する39歳の男。イケメンとは正反対の外見に気が弱く不器用で、仕事とプライベートで失敗を繰り返しながら、それでも愛する妻子に囲まれてささやかな幸せを享受している。

そんな平凡に見える彼だが、他人とは大きく違う点が3つあった。1つはたくさんの恥ずかしい思い出からくる「自分を変えたい」という強烈な願い、2つ目は運動歴ゼロなのに「異様に発達した筋肉」、最後は妻に対する「真実の愛」。日常の理不尽なトラブルで感情が極限に達したとき、愛を否定する者に出会ったとき、ガンマの精神と肉体はフル解放され“鉄人”になる──!

なんとなく設定だけ読むと変身ヒーロー物のように思えるかもしれないが、あくまで現実世界を舞台にしたホームドラマ。主人公の願いでもある「自分を変える」が本作のテーマだ。

・ある日、職場のスーパー内で万引した女性を見かける
・事務所へ来てもらったら、なんと万引き犯はイヤミな上司の妻だった
・その場で万引き妻 vs 不倫上司の不毛なケンカが開始
・「真実の愛」を信じるガンマにはその醜い争いが耐えられない
・感情が限界までたかぶったガンマは突然、ブリーフ1枚の姿になる
・屈強な筋肉で警備員たちを引きずって売り場へ出ていこうとする
・気弱なガンマの理解できない行動に、夫婦ゲンカのいざこざなんて吹き飛んでしまう

実際に読んでみないと伝わりにくいが、だいたい上のような流れで各エピソードが進んでいく。落ち込んで悶々とするパートと、すさまじいパワーを発揮する解放パートがあって、最終的にどんなトラブルも力業で上書きしてしまう……と言えば少しは理解しやすいだろうか。

ガンマはときおり何者をも恐れないパワーを見せ、同僚を驚かせたり、ヤクザ親分のすごみを正面からはねのけたり、凶悪プロレスラーに肉弾戦で勝利したりする。しかし翌日になると、再び元の気弱な中年男に逆戻り。「このままではいけない。肉体だけでなく精神的にも変わらねば!」という彼の葛藤・努力が全編にわたって描かれていく。

作中では“鉄人”パワーで活躍するシーンだけでなく、たびたび美しく女神のような妻との愛情が語られ、かと思えば「親にひどく怒られた話」「同級生の前で恥をかいた話」など過去の苦い経験がフラッシュバックしてガンマの心を苛む。まさにストーリー構成は波乱万丈。そのオンリーワンな作風から、1994年には講談社漫画賞の受賞に至ったほどである。

強烈すぎるストーリー展開、絵柄も濃厚な劇画テイスト、あちこちに男女を問わず裸体が出てくるので、必ずしも万人向けな作品ではない。だがツボにはまってしまえば最後までワクワクしながら、時にはゲラゲラ笑いながら一気読みしてしまうことだろう。刺激的な漫画を読みたい人は、ぜひ手にとって第1話だけでも読んでみていただきたい。

【作品データ】
・作者:山本康人
・出版社:CoMax
・刊行状況:全10巻(続編『ガンマ ~THE γ~』は全3巻)