【あらすじ】
日本のどこにでもいる不良高校生・椿定光は、ある日ヘルメット型の宇宙人と出会い「地球に逃げ込んでくる凶悪宇宙人を捕まえてほしい」と頼まれる。なし崩し的にヒーローとして宇宙人を倒し続ける彼は、いつしか敵の正体と自分に秘められた力を知り、悩みを抱えながら戦い続けることになる……。
【アメコミヒーロー+日本ヒーロー=定光!】
宇宙人から力を与えられるヒーローの日本における歴史は長く、古くは『ウルトラマン』からの定番です。本作の主人公、定光もまたそれらの典型にあてはまるように、宇宙人から力を与えられます。しかし、実はそれ自体キッカケにすぎません。のちに彼はそれとは別なとてつもない超能力に覚醒し、深い悩みを抱えることになります。いかにも漫画的な超常パワーで敵に打ち勝ちながら、同時に「葛藤」するという姿はまるでアメコミヒーローのようでもあり、定光は日米両方のコミックヒーローとしての要素を備えていると言えます。
【リアルだけど、どこかアナログな世界観】
作品は全体的に現代劇といえますが、凶悪宇宙人の襲来によって世界は徐々に衰退へ向かっている世界観です。敵の目的も様々で、単に器物を破壊するだけのものもいれば、知性をもって地球に自分たちの国を作ろうとする宇宙人もいます。地球人もそれに対抗するために宇宙のテクノロジーを解析した武器を作り、それほど敵意のない宇宙人と結託して共闘するなどの手段を選ばない策を練りました。それらの描き方に中平氏のSF知識が加わり、この作品はSF活劇でありながら戦争物でもある側面を見せます。
また、そんな怪物と戦う定光の当初の武装は素手同然。その後にパワーアップを繰り返し高密度の数トンはある(正確には木ではありませんが)木刀、さらには刃の厚さが分子一個分というトンデモない日本刀などが装備されます。これは彼の射撃能力の低さを考慮した結果のカスタマイズという設定がつきますが、戦争そのものの中で飛び道具を使わない不利な設定が、さながら任侠映画や時代劇を見る様で、逆にダイナミックであり爽快です。
【強烈なヒロイン、そして生きたキャラクター達】
本作はアニメ化されるほどの人気を得ましたが、メインヒロインとなる女子高生・やよいが特に強いインパクトを持っています。『武装錬金』のヒロイン・斗貴子の性格が“スパルタン”なら、やよいの性格は“デストロイ”。目の前にいる相手がなんであろうと文字通り皆殺しにしていきます。そのドがつくサディストで強烈な性格はファンから熱い支持を受けました。
主人公が時代錯誤の不良で、ヒロインがドSのツンデレという突き抜けた設定に負けず劣らず、その他のキャラクターも宇宙人の細胞を移植した強化人間であったりスピード狂で気の弱い宇宙人であったりバラエティに富んでいて、まったく読者を飽きさせることがありません。
【一言でこの作品を語るなら…】
一言で言うならこの作品は「可能性」を主題にしたSFです。ヒーローであるはずのものが虐殺者であったり、ただの破壊者がヒーローであったり、ボタンのかけ違いでうまれるいくつかの可能性をそのまま描いた様な作品、とでも言うべきでしょうか。ヒーローものが好き、SFアクションものが好き、そんな人はぜひ一度読んでほしい作品です。
【作品データ】
・作者 :中平正彦
・出版社 :集英社
・刊行状況:全12巻(完結)