【あらすじ】
あの世には天国と地獄がある。地獄は八大地獄と八寒地獄に二分され、さらに二百七十二の部署に分かれているという。そんな複雑な地獄世界で、難問・懸案・課題をサクサク片付ける地獄の有能官僚、その名は鬼灯(ほおずき)。閻魔大王の第一補佐官である!
【みどころ】
1月16日、「マンガ大賞2012」の一次選考通過作品が発表されました。書店員を中心とした選考委員によって、「今、いちばん友達に勧めたいマンガ」を投票で決めるこの賞も、今年で5回目。話題作・人気作が揃うノミネート作品の中から、今回は『モーニング』連載中の『鬼灯の冷徹』を紹介します。
本作の主人公・鬼灯は、地獄トップクラスの鬼神であり、閻魔大王の第一補佐官。切れ者とうたわれる一方で、筋金入りのドS気質の持ち主でもあります。上司(閻魔大王)を前に、
「地獄一頑丈でヘコまない貴方を叩きながら、地獄の黒幕を勤めるのが美味しいんじゃないですか」
と言い放つくらいは日常茶飯事。その冷酷非情、傲岸不遜、慇懃無礼の数々は、たまたま視察に来た西洋地獄のトップ・サタンを「私、部下にあんな対応されたら泣く!」と震え上がらせるほどです。しかし、少々頼りない上司に代わり、鬼灯が亡者やユルい獄卒達に睨みを利かせているおかげで、地獄の秩序が保たれている面もある様子。本編では、そんな地獄のあちこちで繰り広げられる平和(!)な日常が、一話完結形式で描かれていきます。
鬼灯に絡んでくるキャラクターも強烈です。お人好しな閻魔大王を始め、酒と女に目がない桃源郷の薬剤師・白澤(はくたく)とその見習い・桃太郎、その家来から獄卒に転職したシロ(犬)など、ビジュアル的にもインパクト大。彼らと鬼灯が展開する、ボケツッコミの入ったシュールな掛け合いこそが、この漫画の最大の魅力でしょう。
「このボルボックス野郎!!」など即効性の高いツッコミや、現世のアニメネタなど、随所に挟み込まれる小ネタの数々は、じわじわくる中毒性を秘めています。閻魔庁の食堂で、閻魔大王と鬼灯が『世界不思議発見』を観ているなど、微妙に現代ナイズされた地獄の日常も、クスッとさせる部分です。
正直なところ、 筆者は本作を初めて読んだとき、新人ゆえの荒っぽさと作者さん自身のコメントから「漫画好きの中でも知る人ぞ知る作品」と勝手に思っておりました。そのため本作が「マンガ大賞2012」にノミネートされたと知ったときは、嬉しい反面、意外に感じたくらいです(すみません)。
しかし、既刊コミックス3冊を通しで読むと、各話、小粒ではあるものの、ギャグ漫画として安定した水準を維持していることに、改めて気づかされた次第。その未知数の実力で、ぜひ今後の賞レースでも一波乱起こして欲しいものです。
【作品データ】
・作者:江口夏実
・出版社:講談社
・刊行状況:3巻まで(続刊)