どの世界も似たようなことはあるが、新旧交代による盛り上がりがブームに繋がることが多い。戦後の将棋界では、まず十四世名人の木村義雄がおり、升田幸三、大山康晴らが挑んだ。その後の長き大山時代を打ち破ったのは“棋界の若き太陽”と呼ばれた中原誠。次いで21歳で名人位を獲得「一年間、名人位を預からせて頂きます」の名言を残した谷川浩司。そして昭和55年にプロになり活躍したことで、“55年組”と呼ばれた高橋道雄、島朗、塚田泰明らの活躍。近年では羽生善治、森内俊之ら“チャイルドブランド”の存在だ。
これ以外でも将棋に注目が集まることがある。100万枚のヒット曲「おゆき」を歌った内藤國雄。将棋界が舞台になったNHKの連続ドラマ「ふたりっ子」。アマチュアからのプロ入りでニュースになった瀬川晶司など。
ただしひと頃に比べ、将棋に注目が集まることは少なくなっている。
大きな原因は趣味の多様化であり、次代の担い手である子供達が、将棋に向かうことが少なくなっているためだ。コンシューマゲームやオンラインゲームなど、将棋にとって手ごわいライバルが増えつつある。ただしパソコンゲームやオンラインゲームにおいて、将棋はまだまだ参加者の多いゲームの一つではある。てこ入れ次第では、かつてのような一大ブームとまでは行かなくても、人気を集めることができるかもしれない。
【将棋漫画紹介】
『ハチワンダイバー』(集英社/週刊ヤングジャンプ連載中、漫画:柴田ヨクサル、監修:鈴木大介)
将棋とメイド。およそ縁のなさそうな2つのものを合体させたのがこの漫画。ヘタレていた主人公が、女の子?と出会うことで、少しずつ変化していく典型的な成長物語。ただしヨクサル風が目一杯発揮されているので、シリアスともギャグとも言いがたいストーリーになっている。将棋漫画でありながら、将棋を知らない人にも十分楽しめるのは、この漫画の特徴のひとつ。立ちまくってるキャラクターが山ほど居るので、飽きることはないだろう。テレビドラマにもなったが、原作の良さが完全に骨抜きにされており、話のネタ以外で見ておく必要はあまりない。視聴率も振るわなかったしね。
ヤングジャンプ誌上で連載は継続中。しかし鬼将会や将棋国家あたりになって、少し風呂敷を広げすぎた感が出てきた。このまま終わるとも思えず、更なるボスが出てくるのか、それともあの世界の名人が関わってるのか。 ヨクサルがどのように結末までまとめていくのか、楽しみに連載を追うことにしよう。
『燃えろ!一歩』(秋田書店/週刊少年チャンピオン連載、漫画:堂上まさ志)
少年漫画につきものなのが‘必殺技’の存在だ。「○○拳」「○○シュート」「魔球○○」などなど。スポーツ漫画ではリアルな漫画が増えたことで少なくなりつつあるが、ヒーロー漫画ではまだまだ多い。しかし将棋漫画で必殺技を扱うのは非常に困難だ。なぜなら優れた将棋の戦法は真似されてしまう。また研究対象となることで対策が編み出される。
そうした困難を克服したのが、この『燃えろ!一歩』。わずか9歳の主人公、海原一歩が、時の名人、米原我尊に勝利するために‘完全将棋’を編み出す。先の困難は、うまい具合に回避されて、ストーリーが組み立てられている。いくらか将棋界の設定にミスがあるものの、大筋では問題ない。作者の堂上まさ志は『銀玉マサやん』が思い出されるが、その陰(もちろんそんなはずは無いだろうけれども)に、こんな良作が存在していた。コミックスは全6巻。古本屋でまれに見かけることがあるけれども、手っ取り早くデジタルコミックで購入可能。将棋ファンにはお勧めの一作。