現役ボディビルダーが明かす“筋肉のやばい奴ら”!『マッチョ★マックス』

年々高まりつつある日本のフィットネス志向。あちこちでプロテイン製品が買えるようになり、公共放送ではイケメンマッチョが「筋肉は裏切らない!」と爽やかなエールを送る。今回はそんなカジュアル化してきた筋トレ界隈を真っ向から殴りつけるマッスル・コメディ『マッチョ★マックス』を紹介したい。

主人公の三郎は、不摂生を続けてポテポテの肥満体になった大学生。あまりにだらしないボディのせいで電車内でも女性に笑われる、情けない生活を送っていた。そんな彼は偶然、大学のボディビル部員と出会い、なかば強制的にコンテスト(競技会)見学をさせられる。 壇上に並びポージングを決めるボディビルダーたちを見た三郎は独特なマッチョ文化に圧倒されながら、自らもボディビル部に足を踏み入れた。「筋肉をつければ笑われずに済む」「モテるようになるかも」という彼の願望は、果たして叶うのか──?

このように基本的なストーリーは肥満男がボディビルに目覚める、というシンプルなもの。ただ本作の場合、現役ボディビルダーが原作者ということもあり、超絶マニアックな筋トレ知識、過剰なまでの筋肉描写、さらに“筋肉にすべてを捧げた男たち”の異様なメンタル構造など、コテコテの濃い描写が他作品にない特徴となっている。

たとえば作中でコンテスト直前の選手は、『あしたのジョー』の力石徹もビックリなほど水分と脂肪を絞ってミイラ状態になる。だが試合前に水分(ところてん)を補給するとボディが一変、パンパンの弾けるような肉体美を取り戻す。漫画ならではの誇張もあるが、これは体内のグリコーゲンを一気に活性化させる「カーボンアップ」という実在のトレーニング手法。

ほかにもボディビルダーのタイプ分類、ポージングの重要性、体脂肪の減らし方など、本職だけあって詰め込まれた知識量はとても多い。日々の努力で肥満体を脱却し、少しずつマッチョ化していく主人公とともに、読者もそんな筋トレ知識を学べるのだ。

一方、「筋肉が価値観の基準になってしまい正常なコミュニケーションがとれない」「限界を超えた努力を他人にも強いる」など、筋トレマニアのダークサイドとも言える部分まで描いており、いろいろ考えさせられる。

単行本は表題作『マッチョ★マックス』に始まり、同じ主人公の続編である『マッチョ★マックス Reborn』、そして独立した短編『男達の放課後ジム』の3編で構成。すべてがモリモリに、暑苦しく、汗臭く、はち切れるほどの筋肉愛に満ちている。

劇画テイストな絵柄も手伝って好き嫌いが分かれるかもしれないが、美男美女ばかり前面に出される昨今のフィットネスブームへの強烈なアンチテーゼとして、興味ある人はぜひご一読いただきたい快作である。

 【作品データ】
・原作:村形順子 作画:木村知夫
・出版社:実業之日本社
・刊行状況:全1巻