金剛石の処女を好きになった鬼『金剛寺さんは面倒臭い』

「蓼(たで)食う虫も好き好き」のことわざがある。蓼とは、柳蓼(やなぎたで)のことで、独特の辛みや香りがあることから「そんなものでも好んで食べる虫がいる」との意味で、人の好みがいろいろある様子をやや皮肉って表現したことわざだ。もっとも、柳蓼の葉をすり潰して酢などを混ぜた「タデ酢」もある。人間の創意工夫や食への好奇心は感心させられる一方だ。

小学館「ゲッサン」にて連載中の本作『金剛寺さんは面倒臭い』(とよ田みのる)は、まさに「蓼食う虫も好き好き」のことわざがピッタリの作品。2017年10月号から新連載が始まり、この夏、8月9日に単行本第2巻が発売されたところだ。

作品の舞台は現代の日本。ただし、何かの拍子に地獄とつながる穴が開いたことで、人間と鬼とが共存する暮らしになっている。そこで偶然、妊婦を助けた女の子を鬼の男の子が好きになってしまうところから物語は始まっている。

女の子の名前は、タイトルにもある金剛寺金剛(こんごうじ こんごう)。全国模試で64位となるほどの頭脳を持ち、柔道のインターハイ個人戦で2位となった実力もある文武両道の高校2年生。男の子の名前は、樺山プリン(かばやま ぷりん)。金剛と同じ高校に通う男子高校生で、額に2本の角を持つ鬼。もちろん出身は地獄だ。結論から書くと、金剛寺はオリンピックの女子柔道で金メダルを獲得し、樺山と結婚することになる。「ネタバレを書いちゃっても良いの?」と思うかもしれないが、これは作品の中でも既にしっかりと描かれている事実であり、そこに至るまでの紆余曲折……どころか、右往左往の極大曲折を描いた内容がメインとなっている。

さて、ヒロインである金剛寺金剛。先に書いた通り文武両道で、そこそこ整った顔立ちのため、樺山プリンならずとも好きになる人がいても不思議ではないのだが、タイトルにある通り面倒臭い、尋常を大きく通り越してとーっても面倒臭い性格や考え方をしている。ついたあだ名は「大江戸湾岸高校の金剛石の処女(おおえどわんがんこうこうのダイヤモンドメイデン)だ。例えば、妊婦を助けた彼女は相手から名前を尋ねられるものの、「道徳の教科書にあるような規範に基づいたシステムとして行ったまでのこと」として名のるのを断り、「このまま先へどうぞ」と言い切っている。また、樺山からデートをしたいとの申し出があった時も、「私と君の『普通』は違うのだ」と言って、デートをする隙を見せない。もっとも、その後で友達と一緒に混浴スパに行くのだが。

話が進むにつれて、金剛寺金剛と樺山プリンとの仲が縮まり、チッス(本文ママ、キスのこと)までするのだけれども、それと歩調を合わせるように、地獄が地上とつながった原因が明らかになりそうな気配がある。2018年9月号に掲載された第12話「AFTER SHOK」には、約10年後に2人が結婚した写真が載っており、そこの樺山は角が一本根元から折れ、額にバッテンの傷を負っている。これは何かの伏線なのだろうか。いや、そうに違いない。これからも期待して読み進めて行こう。

ところで、彼女が毎週金曜日の朝食に作るダシ巻き玉子は、縦5センチ、横8.09センチ、高さ2センチの直方体で、いずれも角度は直角、横にきっちり20グラムの大根おろしが添えられているとのこと。ぜひ食べてみたいです。

【作品データ】
作者:とよ田みのる
出版社:小学館
刊行状況:1~2巻(以下続刊)