木村潤は専業主夫。幼稚園の年長さんの息子・渉は、泣き虫で甘えん坊だけれど、優しくてとてもいい子だ。奥さんの直美さんは、バッリバリのキャリアウーマンで、気は強いけれど美人でカワイイところもあるツンデレ気味な女性。
平凡な3人家族は、念願の社宅に当選し、高齢者の多かったアパートから引っ越してきた。さぁ、まずはご近所に挨拶回りを……と直美さんは第一にお隣の藤江さんのお宅へ。そう、ここは社宅。住んでいる人は当然直美さんの会社の人ばかりであるわけで、藤江さんは直美さんの上司なのである。そんな社宅で巻き起こる、ほんわかヒューマンコメディ!
藤江さんの息子の祥太くんは、直美さんいわく「あのふてぶてしい態度、課長ソックリ!」らしいが、渉はこれまで同じアパートに同じくらいの年頃の友達がいなかったこともあり、仲良くしたい気持ちがある様子。2人はどうやら同じ年長さんらしく、新しい幼稚園でバッタリ?! 最初は渉が泣くほど距離のあった祥太くんとの関係も少しずつ発展しているように思えるが、子ども目線から見ても藤江家にはいろいろ事情がある様子。子どもは本当に敏感で繊細だなぁとしみじみ思う。
渉の幼稚園の送り迎えやスーパーへの買い出しなど、家事全般は当然ながらすべて潤が担当しているが、さすがは専業主夫! スーパーで安価な良品をゲットするために燃やす執着心は、そこらの主婦顔負けである。あの手この手で格安商品を手にする様子は、まるでセリかオークションのようだ(笑)。
普段はスウェットかエプロンで過ごす潤に、「寝間着のような格好で外をウロウロするのも人の親としてどうかと思う」と藤江課長は辛辣に言うが、その背を見送ってから渉が言う「パパの服はパジャマじゃないよねぇ」に対して、潤も「これは“スウェット”と言って身体に優しい素材でできたリラックスウェアだ」と静かに反論するのが面白い。
日を改めつつご近所に挨拶をしていくと、徐々に直美さんの部下や他部署の友人も登場する。推しは柚木崎兄弟。兄の咲蘭(さくら)と弟の大和(やまと)は、双子なので顔はソックリだけれど、性格は少し年の差のある兄弟のよう。潤が風邪で寝込んだときは、大和がテキパキと動いて看病してくれた。咲蘭も初対面で渉の心を一瞬にしてつかんでしまうという、スーパーイケメンツインズだ。
藤江課長と反対側の隣に住む佐藤は、直美さんのことが大好きな彼女の部下なのだが、いつもウザがられて適当にあしらわれ、あわよくば存在を消されるほどに辛辣な扱いを受けるキャラ。しかしそんな佐藤の存在があってこそ、本作がシリアスとコメディの要素をうまく両立できているとも言える。
主人公は潤という専業主夫でありつつも、子どものナイーブな心をうまく捉え、社宅というある意味閉鎖的な空間を前向きに捉えて、魅力的なキャラクターで彩ることで、人間関係のありがたさや思いやりがさりげなく描かれている。「何も考えずに楽しくなれる漫画」を求めているならば、ぜひ読んでみてほしいと思う。特に教訓的なことが描かれているわけでもなく、誰かに何か特別なことが起こるわけでもない、何でもない日常なのに、それが平べったく見えないのが本作の魅力だろう。何も求めずに読むからこそ、得られるものは人それぞれなのだ。
【作品データ】
・作者:増々ヒトシ
・出版社:オトロマ
・刊行状況:全2巻
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