ありそうでなかった! “丼”がテーマの料理漫画『旬 ~味彩の匠~』

180815 旬 ~味彩の匠~_1巻書影長い歴史を持ちながら今なお新作が次々に登場し、一大ジャンルとなっている“グルメ・料理”漫画。カレーやラーメン、寿司、パンなど国民食を扱ったものも多く存在するが、なじみ深い「丼」料理メインの作品があったことをご存知だろうか? 今回ご紹介するのは、その丼をテーマとした『旬 ~味彩の匠~』だ。

主人公の倉田旬は、そば屋の一人息子。店は老舗ではあるものの父親が事故で体を痛めて味が落ち、客足が遠のいていた。さらに父親が連帯保証人となった友人が逃げ出し、1億円もの負債を肩代わりすることになるという大ピンチが到来。取り立て屋の冷徹な男・青沼が美食家だと知った旬は、満足にそばが打てない父親に代わって自分が料理をふるまい、返済先延ばしをしてもらおうという賭けに出る。

まだ学生の旬が唯一作れる料理は、そばではなく自身の大好物である「カツ丼」。安い鰹の中落ちをカツに仕立てるという奇策で最高のカツ丼を作って青沼を感心させた旬は、見事に借金から店を守り、ここから彼の果てしない料理探求のストーリーが始まる。

180815-旬-~味彩の匠~_1巻P40

未熟だが才能のある若き料理人が苦難を乗り越えながら成長していく……メジャー作品でテイストが一番近いのは『将太の寿司』だろうか。だが本作は丼というテーマ選びだけでなく、調和(バランス)の概念がうまく作中に生かされていて、単なる二番煎じではないオリジナリティにあふれている。

丼という料理はシンプルなようで奥が深く、単に豪華な具材を白米に乗せれば完成ではない。味を出すもの(具材)と味を吸うもの(米)、この両方がお互いを引き立て合い、1+1を5にも10にもする必要がある。主人公は知識も技術も未熟な少年だが、そのバランスをとる才能が飛び抜けているという設定だ。

いくら具材を変えても丼だけならネタがすぐ尽きるのでは?なんて心配は無用。「老人のわずかな記憶から丼を再現する」「女子高生が喜ぶ低カロリー丼」など、旬が挑む課題はさまざま。さらに一般的な和風の丼だけでなく、オムライスのように卵でふんわりご飯を包んだオム丼、東南アジアのナシゴレンまで登場し、バリエーションは無尽蔵である。

物語は、父親に借金を押し付け逃げた男の実娘・彩(メインヒロイン)と、借金をタテに店の土地を狙っていた投資家・青沼の2人を主なサブキャラとして全国各地に展開する。人助けあり、定番の料理バトルあり、一流店での修行あり、ちょっとしたラブコメありと、これまた丼のレパートリーと同じく多彩だ。キャラクターの中では青沼がいい味を出している。第1話のテンプレ的な悪党から、以後は旬のよき理解者となって、時には援助し、時には厳しい課題を与えて成長を見守っていく。

全体的にピンチとチャンス、対立と和解、シリアスと日常のバランスがとれており、作品自体が旬の作る丼料理のように「調和」を意識した構成になっている。絵はやや荒削りだがクセがなく、女性キャラの可愛さは特筆モノだ。

ストレスなく読める適度なボリューム感の漫画を探している人には、まさにイチオシと言える本作。ぜひ昼食前など、お腹のすく時間帯に読んでみてほしい。きっとホカホカの丼料理が食べたくなるだろう。

【作品データ】
・作者:高倉みどり
・出版社:ビーグリー
・刊行状況:全8巻

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