国民的スポーツである野球を扱った漫画といえば『巨人の星』『キャプテン』『タッチ』、さらに先日46年の歴史を閉じたばかりの『ドカベン』など名作ぞろいだが、今回は昭和時代の名作ならぬ“怪作”――1980年代に連載された『緑山高校』をガッツリと紹介したい。
まだ甲子園球場がツタに覆われ、ラッキーゾーンがあった時代。福島県の夏予選を無名校「緑山高校」が突破して全国への切符を手に入れた。誰も知らないのは当然。なぜなら緑山高校はその年に開校したばかりで、野球部員も全員が1年生だからだ。
主人公はここに所属する規格外の怪物エース投手・二階堂。彼を中心にクセ者ぞろいな1年生チームが甲子園で大暴れする様子が、躍動感いっぱいに描かれる。
二階堂の左腕から投げ下ろされる豪速球はなんと180km/hオーバー! 打ち返そうとすれば金属バットがひしゃげ、腕の骨を砕き、捕球したキャッチャーを審判ごとバックネットまで吹き飛ばす! またバッターとしても凄まじく、三振こそ多いがヒットを打てばほぼ100%がホームラン。捕ろうとした野手もろともスタンドに叩き込む、本物のバケモノである。
こんな二階堂を筆頭に実力派がそろった緑山高校だが、それでも楽勝できるほど甲子園は甘くない。150km/h以上の消える魔球を投げるエース投手、脱輪したトラックを1人で軽く持ち上げるほどのパワーヒッターなど、ライバルたちも超高校級。ちょくちょくギャグシーンを挟みながら、すさまじい激闘が全編にわたって繰り広げられる。
選手たちの超人ぶり以外にも本作がユニークなのは、野球漫画にあるまじき“味方チームの仲の悪さ”だ。高校球児の悲願である甲子園優勝なんて二の次で、「適当に試合を終わって大阪見物したい」「ほかのチームメイトよりも目立ちたい」……こんな考えから選手それぞれが好き勝手に行動し、口論や殴り合いは日常茶飯事。最強エースながら傲慢すぎる二階堂がスタメンから外されるなどハンデのついた試合もあって、毎回ハラハラしながら読むことができる。
絵柄はやや荒っぽいが豪快なコマ割り、セリフまわしと相性が良く、作画が安定してきた中盤からのド迫力は怪作と呼ぶにふさわしい。とにかくゲラゲラ笑いながらすっきりしたい人には最高の一作と言えるだろう。
なお本作は一番盛り上がった「甲子園編」がOVAとして映像化されており、作画、演出、音楽、有名声優の熱演まで全方面で素晴らしいクオリティだ。2015年にBDボックスが発売され、大手ネット通販のアマゾンではユーザーレビューで平均4.9ポイント(満点は5)という驚異的な高評価を叩き出している。原作を読んで興味が湧いた人は、ぜひアニメもチェックしてみてほしい。
【作品データ】
・作者:桑沢篤夫
・出版社:集英社
・刊行状況:全20巻(完結)
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