「きれいごと」として描かれぬ医者の姿『ブラックジャックによろしく』

【あらすじ】
「医者って一体、なんなんだ?」超一流といわれる永禄大学附属病院の研修医・斉藤英二郎の月収は、わずか3万8千円。同大学医学部を卒業して3カ月、初めて患者を受け持った斉藤は、その理想とかけ離れた日本の医療が持つ現実に葛藤しつつも、一人前の医師として成長していく。

【みどころ】
例えば、あなたや、あなたの大切な人がガンになったら?その治療薬が日本では未承認であるため、高額な薬代がかかるとしたら――?

厚生労働省の発表によると、65歳以上の人口は2013年で3000万人を超過し、女性の平均寿命は世界一だという。世界トップクラスの長寿大国・ニッポンを支える原因の一つが、その医療制度であることは疑いない事実です。高水準といわれる医療技術と高度な設備、清潔な施設、そして「国民皆保険制度」のもたらす恩恵は、確かにありがたいものです。

しかし、私たち日本人は自国が医療先進国であるという先入観を抱くあまり、その「闇」には目を向けていないのかもしれない……。そんな思いを筆者に抱かせたのが、佐藤秀峰による医療漫画『ブラックジャックによろしく』(13巻完結)です。

本作は2006年まで『モーニング』(講談社)誌上で連載され、2002年には第6回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞しました。2003年には妻夫木聡の主演でテレビドラマ化もされ、現在も根強い人気を誇る作品です。

作品内容に少し触れると、主人公の斉藤英二郎は名門・永禄大学の研修医として、日本の医療現場が抱える真実に直面します。冒頭で挙げたような理不尽や矛盾が横行する医療現場に反逆し、患者のために奔走する斎藤。そこに患者と家族の葛藤、個性豊かな医療関係者たちの苦悩を織り交ぜ、熱く骨太なドラマが展開されます。

生と死の狭間で繰り広げられるギリギリの選択、一人ひとりの思惑が作り出す予測不能の展開、容赦なく読者につきつけられる日本の医学界の現実。癖のある絵柄と緻密なコマから熱量とともにほとばしるのは、けしてきれいごとだけではない現代医療の姿であり、医者という一人の人間の姿であります。

ちなみに本作は著者の意向による著作権フリー化に伴い、双葉社から廉価版が発行されたり、電子書籍配信サイトや『漫画 on Web』で全巻無料配信したりするなど、他の漫画作品と違って比較的手軽に読めるのも魅力といえば魅力です。病によって明日をも知れぬ状態の患者を前にした斎藤が、冒頭の問いに対してどんな結論を出したか、ぜひご自身の目で確かめていただければと思います。

【作品データ】
・作者: 佐藤秀峰
・出版社:講談社
・刊行状況:全13巻(完結)