「虚実の皮膜」を描いて空前の大ヒット『るろうに剣心』映画版


昨年から今年にかけて、『寄生獣』『美少女戦士セーラームーン』など1990年代にヒットした名作コミックのアニメ・実写化が相次いでいる。そんな中にあって、ひときわ大きなトピックの一つと言えるのが『るろうに剣心』実写版映画の大ヒットだろう。

幕末から明治に生きた伝説の剣客を描いた人気コミックである同作は、先立つ2012年に制作された第1作目の最終興行収入は30億円、さらに日本公開と同時に世界64ヶ国で上映が決定。アジア圏での最終興行収入が日本映画初の1億円を突破するスマッシュヒットとなった。これを受けて2014年秋に公開された続編『京都大火編』『伝説の最期編』は日本国内で公開直後から3週連続首位をキープ、興行成績は合計100億円に迫る好調ぶりを見せた。

しかし、かつての日本映画界においては「漫画の映画化はファンが持つ原作のイメージを壊しかねないため、ヒットしにくい」という慣例じみた不安感はなかっただろうか? 現に国内産から香港製、ハリウッド製に至るまで、我々は日本のゲーム・アニメを原作とした映画を何度も観ては、その都度、原作とかけ離れた出来に失望させられてきただろうか。だが同作はそんな原作ファンが持つ不安を見事に一蹴したといえる。

そんな同作の勝因は何か。理由のひとつが原作世界の忠実な再現だ。孤高の美剣士を演じさせたら当代一流の俳優・佐藤健を主役の剣心役に据えたのはまず大成功である。その他にも実写化不可能と思われた志々雄真実を怪演した藤原竜也や、入魂のなりきり感を漂わせる江口洋介、伊勢谷友介など脇を固める俳優のビジュアルや演技は見事の一言である。

さらに原作では比較的あっさりと描かれていた、明治政府の歴史的な描写や日本の四季折々が、作品世界に華やかさと奥行を添えている。花鳥風月やかつての日本では当たり前だった日常風景の演出が、剣心を始め各人物の苦悩や葛藤、人物の心情をオリジナル要素を絡めながら、深く掘り下げる効果を生んでいる。「事実と虚構との微妙な境界に芸術の真実がある」という「虚実皮膜論」を唱えたのは江戸時代の浄瑠璃作者・近松門左衛門だが、本作はこの虚と実の境界を描ききることで、原作のクオリティを超えた一本の映画として成立している。歴史というリアルの世界をきちんと描いているから、原作が持つ漫画的な「虚」の世界が血肉を持った人間の世界として生き生きと動き出している。この絶妙な虚実のバランスは従来の漫画原作の映画とは一線を画したものである。

また、本作は原作側も映画公開と同時期にセルフリメイク版を『ジャンプスクエア』『週刊少年ジャンプ』に連載するなど、クロスメディア展開を大々的に行ったのも新しい傾向である。11月に岩明均の『寄生獣』、12月には東村アキコの『海月姫』など人気コミックの映画化作品の公開が目白押しだった。ヒット漫画の原作に頼らざるを得ないというのは、オリジナルを作っても観客が入らないという日本映画界の現状もあるのだろう。その意味でも、『るろうに剣心』実写版は現代の日本映画が抱える危機、そして未来を如実に体現した作品のひとつといえるだろう。