日本が誇る漫画文化の厳しい現実? 『重版出来!』

【あらすじ】
重版。それは出版業界に身を置く者なら誰もが好きな言葉である。重版がかかれば著者には印税が振り込まれ、出版社と書店の利益も伸びる。この漫画は雑誌『バイブス』の編集部を舞台に、漫画家、編集者、営業、宣伝、製版、印刷、デザイナー、取次、書店員など「重版」を望んで奔走するすべての人々への熱きエールである。

【みどころ】
不況と言われて久しい現代日本の出版業界。若者の活字離れ、相次ぐ雑誌の休刊、携帯電話やwebによる無料コンテンツの出現など、厳しい現状をうかがわせる要素は多いが、漫画業界も例外ではない。そんな今、漫画作りに関わる人々の奮闘を描いた『重版出来(じゅうはんしゅったい)!』(松田奈緒子著・小学館/既刊4巻)という漫画が話題となっている。

単行本のヒットを意味する業界用語をタイトルにした本作。その見所は漫画業界の厳しい現状と、作家や編集者、営業、デザイナー、書店員といった漫画に関わる人々の芯の通った仕事ぶりに尽きるだろう。例えば「単行本の初版部数はどうやって決まるのか」という疑問に対して、本作は大手出版社の営業会議にて営業課長とベテラン編集者の熾烈な駆け引きを描き出す。
赤字を防ぎたい営業側は、実績に乏しい新人作家の単行本の部数を増やしたくない。だが編集側は新人育成も業界の使命と考え、1冊でも多く刷って世に送り出そうと粘る。両者の言い分はそれぞれ一理あるだけにやるせない。

また、毎回登場する漫画家の面々も実にいい。彼らは加齢や家族との確執、スランプなど例外なく複雑な事情を抱えているのだが、それでも漫画を愛してやまない姿は人生の滋味を感じさせるのだ。

現在、日本の漫画は国際的に高い評価を受ける作品も多く、世界に誇る日本文化の代表格となっている。だが少し前の日本では、漫画の社会的地位は現在と比較にならないほど低いものだったと筆者は記憶している。それが現在の地位を獲得するまでの道のりには、本作で描かれたような熱き戦いが繰り返されたのかも、と想像せずにはいられない。

【作品データ】
・作者:松田奈緒子
・出版社:小学館
・刊行状況:4巻まで(以下続刊)