将棋漫画考察 【第1回】将棋人口

これまで将棋を題材にした漫画がいろいろ描かれてきた。将棋の現状について解説しながら、将棋漫画を紹介してみたい。

将棋人口は、ざっくり1千万人と言われている。ただし確たる集計があるわけではなく、推計の面が強い。何を持って将棋人口とするかも明確ではなく、単にルールを知っているだけであれば更に増えると思われるし、将棋に実際のお金をかけている人を数えるのであればもっと少なくなりそうだ。

ただしこの‘ルールを知っている人が多い’事実は、題材にするに当たって大きな追い風になる。スポーツ漫画でも同じことが言えるが、野球やサッカーのようにルールを多くの人に知られているスポーツは、テーマにしやすい。なぜなら漫画内でルールを説明する手間が省ける上に、そのスポーツファンが漫画ファンになる可能性があるからだ。もちろんファンが多ければ、漫画を見る目も厳しいものになる。それに耐えられる作品だけが、ヒット漫画として世に残っていく。

趣味が多様化するにつれて、将棋人口は減りつつあると言われている。ネットゲームの世界でも、将棋に興じる人は多いものの、お金をかけようとまで考える人は少ないようだ。漫画のヒットが現実世界にブームを起こすことがある。将棋漫画のヒットが将棋人口の増加につなげることができるだろうか。

【将棋漫画紹介】

『月下の棋士』(小学館ビッグコミックスピリッツ連載、漫画:能條純一、監修:河口俊彦)
将棋漫画を代表する一作。誇張された面があるものの、将棋界の状況や棋士の様子は、かなり正確に描かれている。能條純一の精緻な絵が特筆物。実際にはありえない出来事であっても、漫画ならではの表現として見事に描かれていた。また監修についた河口俊彦(プロ棋士)は、将棋に関連した書物を多々出版しているので、それが役立った面もあるのだろう。

風貌や言動などから、登場人物の多くに実際のモデルが居ることが推測され、将棋ファンには垂涎物の場面もある。森田剛の主演でドラマ化。これに影響を受けたのか、将棋大会で帽子を被ったままや立て膝で対局するなどの子供が居たとのこと。個人的にこれを越える将棋漫画は出ないのではないだろうかと思っている作品。

『ヤンケの香介』(毎日コミュニケーションズ週刊将棋連載、漫画:村祭まこと)
将棋専門の新聞週刊将棋に連載されていたこともあって、将棋的にはほぼ完全な作品。明治期の揺れ動く将棋界と、そこで奮戦する棋士や真剣士(賭け将棋指し)を巧みに描いている。

ただしところどころに連載当時の時事ネタがあるのが残念なところ。時事ネタはうまく取り入れないと、単行本にまとめられた時に陳腐化してしまう。それを差し引いても、なかなかの傑作で、NHKでドラマ化されてもおかしくない程の出来ばえ。しかし出版社が力を入れてなかったのか、漫画的にはあまり話題にならなかったのが残念。最初に発行された単行本全4巻は、現在では入手が困難。電子コミックであれば入手可能。