人間の本質を問う。賭博エンターテイメントの傑作『嘘喰い』


2014年の日本を最も賑わしたトピックの1つに、「カジノ誘致の是非」を数えてもいいだろう。観光資源の充実。経済の活性化。一方では、治安の悪化。ギャンブル依存症者の増大など、カジノ誘致のメリットとデメリットを主張する識者の声が、連日メディアを通じて耳に入ってきた。解散総選挙が決まった後は、その動きはひとまず落ち着きを見せているが、今後も政策の論点となりそうな議題である。

ギャンブル漫画の数は少なくないが、今回紹介する『嘘喰い』(迫稔雄/集英社)が傑出しているのは、ギャンブルに溺れる人間の心理、顛末といった人間模様を描くことに特化している点だ。

主人公である斑目貘は、生まれながらの天才ギャンブラー。国家レベルの権力を持つ賭博組織「賭郎」を舞台に、周囲の人間を巻き込み、権力、暴力、利権を手に入れるために格闘する。ギャンブルには、様々なリスクが伴う。そんなメッセージを帯びるかのごとく、暴力と権力の相関性を描写するシーンも多い。また、戦いのプロである立会人同士の格闘シーンなど純粋なエンターテイメント作品としても一見の価値がある。そんな作風に魅了されるファンは多く、400万部超のヒットを飛ばしている。頁を進めやすいので気軽に手に取ってみて欲しい。

本作には騙す側の人間と、騙される側の人間の2種類しか存在しない。貘が最も信頼を置く梶も、元々は闇金や消費者金融に追われる“搾取される側”の人間であった。梶は物語の中で成長を見せるが、貘との対比で見ればあくまで一般人の粋は超えない。梶は現代社会を移す鏡であり、そこに作者の意図が見て取れるような気がする。ギャンブルは勝者と敗者がクッキリと分かれるものだ。そんな当たり前の現実と怖さを『嘘喰い』は教えてくれる。

【作品情報】
・作者:迫稔雄
・出版社:集英社
・刊行状況:35巻(続刊)