【グルメ漫画特集-06】ダイナミックな演出で魅せる『中華一番! 』『真・中華一番! 』


【あらすじ】
舞台は19世紀の中国。偉大な料理人を母にもつ少年・劉 昴星(マオ)は、自身も数奇な運命により料理の道を志すようになる。持ち前の明るさと発想力、厳しい修行により料理人の最高位「特級厨師」となったマオだが、それはまだ長い戦いのスタート地点に過ぎなかった。料理で人を幸福にするため腕を振うマオたちと対極に、料理の力を悪用して人々の支配をもくろむ集団「裏料理界」の暗躍――母親の代からの因縁に決着をつけるため、裏料理界の猛者たちにマオは対決を挑む!

【みどころ】
1990年代後半、少年マガジン系で連載された王道グルメ漫画。1年半にわたりTVアニメが放送されていたのでタイトルを記憶している人も多いだろう。主人公のマオは『ONE PIECE』のルフィ役などで有名な田中真弓さんが勤めた。

料理バトルの漫画で中華料理が登場する作品は多いが、中華料理専門、しかも中国を舞台にしたものはきわめて少ない。列強がアジアに進出してきた動乱の時代という難しいバックグラウンドを、うまく少年漫画に仕立てあげた意欲作だ。

本作最大の見どころは、常識にとらわれない多彩なキャラクター描写と、読者のド肝を抜く豪快な料理シーンだろう。主人公のマオは小柄な少年だが、敵味方とも異様にマッチョキャラが多く「鋼棍のシェル」「七星刀のレオン」など、異名も完全にバトル漫画のノリ。煮えたぎったスープを素手でかき混ぜたり、気功エネルギーを応用して食べた人間の心を操ったり、トンデモ技を使用するキャラも珍しくない。少年漫画としての“つかみ”部分は完璧だ。

料理シーンはこれまたダイナミック&ユニーク。豚一匹の全部位を使用した「大宇宙焼売(ビッグバンしゅうまい)」、肉眼では見えないほど薄く打った麺「無影麺(インビジブルめん)」など、いい意味のハッタリ全開で楽しませてくれる。また、裏料理界という無法集団がおもな対決相手のため、味の判定で敗れたら身投げするとか猛毒を飲むとか、やたら危険なシチュエーションでの料理シーンがちらほら。実際に少なからず“死者が出る”というグルメ漫画としては珍しい作品である。

そして裏料理界と並んで特殊な設定が、中国各地に封印されている「伝説の厨具」の存在だろう。はるか昔に飛来した隕鉄から作られた調理器具で“あらゆる食材の鮮度を永遠に保つ”といった、時空を超越したSF的アイテムとして描かれている。しかも8つすべてを揃えれば不老不死になれるというのだから驚くしかない。ストーリー中盤からはこの厨具を求め、マオの一行と裏料理界が何度も激突することになる。

このように奇想天外な設定とストーリーだが、作者の力量によって見事にエンタメ作品としてのバランスが取れている。ド派手な演出の裏でしっかり食材や調理法の知識が描写され、出来上がった料理が本当に美味しそうに描かれているため説得力がある。料理対決で死者が出ることもあるが、そうしたキャラは“自分の信念に殉じる”描写がされ理不尽な印象は少ない。なにより主人公のマオが挫折にもめげない前向きなキャラで、“料理で人を幸福にする”という信念(=作品テーマ)が終始ブレることなく読後感は意外なほど爽快だ。

すでに15年も前に連載終了しているが今読み返しても古臭さはなく、何度でも楽しめる良作だと言える。修行編の『中華一番!』、裏料理界との真っ向対決を描いた『真・中華一番! 』……冒険あり友情あり涙あり笑いありラブコメあり、どちらも熱いテンションで非常にオススメだ。

【作品情報】
・作者:小川悦司
・出版社:講談社
・刊行状況:全17巻(5巻+12巻/完結)