【あらすじ】
妻を亡くし、幼い愛娘(つむぎ)を育てるのに悪戦苦闘する高校教師・犬塚。彼は特に料理が大の苦手で、食事を市販の弁当に頼る生活だった……。そんなある日、犬塚はふとしたきっかで、自分が教える学校の女子生徒・飯田小鳥から「私とごはんを作って食べませんか?」と提案を受ける。妻(母)を失った犬塚親子、両親が離婚して保護者の母も留守がちな小鳥――さみしい食卓を味わってきた3人は“一緒に料理を作る”ことを繰り返すうち、賑やかで満ち足りた食卓を築くようになっていく。
【みどころ】
食べること、作ることそれぞれ片方を重視するグルメ漫画は多いが、本作はその両方にほぼ同じウェイトを置いている。『クッキングパパ』『高杉さん家のおべんとう』などと並び、“食卓を通じて団らんを築く”タイプのクッキング&ホームドラマ作品だ。
メインキャラクターは3人。義理堅く実直な主人公の犬塚、食べ盛りの無邪気な娘・つむぎ。そして犬塚の務める学校に通っている少女・小鳥。この中でもヒロイン役、小鳥が特に読者の目を引くことだろう。黒髪美少女だが社交性はあまり高くなく、学校では友達が少ない。自宅は母親が切り盛りする評判の料理屋であるが、その母は最近テレビ出演することが増えてなかなか家にいない。引っ込み思案のように見えて大胆、味覚は鋭敏だが包丁恐怖症で料理経験に乏しい――意外性あふれる設定のキャラクターになっている。
そんな小鳥と犬塚が料理に挑むのだから、なかなか調理シーンもスリリングだ。最初は米を炊く、豚汁を作るだけで四苦八苦。他のグルメ漫画のように洗練された作り方ではないが、そこが逆にリアリティを出している。エピソードを重ねるごとに揚げ物を作ったり魚を3枚に捌けるようになったり、ちゃんと上達を感じられるところも楽しい。
おいしく充実した団らんを経ながら、犬塚は少しずつ父親としてつむぎに正面から向き合えるようになってくる。一方の小鳥は真剣に娘を見守る犬塚に対し、父性を超えた恋心を感じるようになる――こうした人間関係のちょっとした変化も本作の見どころだ。
ストーリーは山あり谷ありだが終始安定していて、悪人は一人も出てこない。クドさのない絵柄もあわせて万人へオススメできる。こちらのサイトから第1話の序盤だけ試し読みできるので、作風が気に入ったらぜひコミックスも手に取ってみてほしい。
【作品情報】
・作者:雨隠ギド
・出版社:講談社
・刊行状況:3巻まで(続刊)