【あらすじ】
「仕事と寝ている間以外の時間は食べ物のことを考えている、仕事によっては仕事中も食べ物のことを考えている」と豪語してはばからない漫画家・「YながFみ」。あくまでも架空の(?)主人公である彼女が、都内に実在する名店から隠れ家的な穴場までを紹介する食通エッセイ。東京で美味いものが食べたい人にはおススメの一冊。
【みどころ】
日本男女の未婚化・晩婚化が進んでいる。平成22年の総務省「国勢調査」によると、男性の未婚率は30~34歳で47.3%、35歳~39歳で35.6%、女性は30~34歳で34.5%、35~39歳で23.1%。平均すれば現代日本の30代女性において28.8%の層、つまり3.5人に1人は独身であるという計算が成り立つ。
今回紹介する漫画『愛がなくても喰ってゆけます』の主人公、漫画家のYながFみもそんな独身30代女性の一人(当時)である。しかも彼女は「仕事中と寝ている時以外はほぼ四六時中食い物のことを考えて生きている。仕事によっては仕事中も食べ物のことを考えている」とのたまう筋金入りの食通である。
その言葉通り、Yながの食への執着は本編中で恋愛を凌駕する。お気に入りの店をけなした恋人に対し「自分の連れてった店にケチつけられるのだけは耐えきれん!」と即日破局したかと思えば、合コンで会った別の男からメールが来なければ仕事を無視して友人(男)を誘って鰻を食べに行く。その己の欲望に忠実な生き様は、読んでいて実にすがすがしい。
そもそも一般的な女性が恋愛や結婚にこだわるのも、Yながのように仕事や好きなもの執着するのも「幸せ」のためである。経済的に自立して稼いだ金で自分を喜ばせて生きる。そんな「愛がなくても喰ってゆける」Yながの姿はどこまでもたくましく健全な現代日本女性の姿である。
しかしそんなYながもアシスタント兼同居人と結婚の約束をするなど、将来への不安を見せる弱さもある。そう、愛がなくても喰ってゆけるが、愛のない人生は寂しい。食通エッセイ漫画に見えて、結婚しない(できない)日本の若者の生き様を結構リアルに描いていて、たまにアラフォー、アラサー世代の読者には胸を鋭くえぐられる名作である。
【作品データ】
・作者:よしながふみ
・出版社:太田出版
・刊行状況:1巻(完結)