【グルメ漫画特集-04】胃袋超人たちの“大食いバトル”が熱い! 『喰いしん坊!』


【あらすじ】
食い道楽のサラリーマン・大原満太郎はある日、街の食堂で大食いチャレンジのイベントを目にする。キロ単位の料理を食べる大食いなど自分とは無縁の世界だと思っていた満太郎だが、ひょんなことからその場にいた強豪フードファイター・錠二に適性を見いだされ、大食いバトルの世界に足を踏み入れることになる。おりしもその時期は、財界の大物が“見る者に感動を与える大食いを”と、フードファイトの本格的な興業化に乗り出したタイミング。大食いの奥深さに目覚めた満太郎は全身全霊を賭けて、猛者ひしめく戦いに挑んでいく――!

【みどころ】
ありそうで意外と少ない「大食い」を主題にした作品。ニッチなテーマだが長期間にわたって連載され、2007年には実写映画化もされている。タイトルや表紙イラストからは分かりにくいが、実は相当な娯楽性とテーマ性を両立させた良作である。

本作で一番ユニークなのは、大食いバトルにまつわる一般的なネガティブイメージ「食べ物を粗末にしている」「食べ方が汚い」「美味しそうに食べていない」を逆手に取り、高いエンターテイメント性を獲得している点だ。

主人公からして、最初は大食いになど興味がない普通にグルメ志向なサラリーマンという設定。なのでフードファイターに目覚めてからも汚い食べ方は良しとしない。作った人と食材に感謝し“美味しいものを美味しいままたくさん食べる”ことをポリシーとしているのは好感が持てる。満太郎に加え、作中で味方陣営にあたる団体「丹下フードファイター(TFF)」所属のキャラはこちら側のスタンスだ。

一方、作中で敵対することになる団体「大阪食い倒れフードファイター(OKFF)」は、これとまったく対極のポリシーを持って挑んでくる。肉まんを大量の水にぶち混んで飲み干す、せっかくのステーキをミキサーに入れて攪拌する……とにかくどんな手段を使ってでも大食い試合に勝てばいいという“邪道喰い”の使い手たちなのだ。この相反する2つの団体が激突し、どちらにも属さない(思想的にはOKFFの敵)満太郎も戦いの渦中へ身を投じる。

大食い勝負というシンプルな主題でありながら、奇跡の逆転劇あり、虚々実々の駆け引きあり、信頼していた仲間の裏切りあり、敵だった相手との和解あり――およそ恋愛を除くほとんどの娯楽要素がボリュームいっぱいに詰め込まれている。料理で人助けする漫画や美少女が大勢出てくるグルメ漫画に食傷気味な人は、ぜひこの“超・硬派なグルメファイト”作品を読んでみてほしい。

【作品情報】
・作者:土山しげる
・出版社:日本文芸社
・刊行状況:全24巻(完結)