全く新しい織田信長像を描き出す歴史漫画『信長協奏曲』

信長協奏曲 10 (ゲッサン少年サンデーコミックス)

【あらすじ】
勉強嫌いな高校生・サブローはある日塀から墜落した拍子に戦国時代にタイムスリップしてしまう。タイムスリップした先でサブローが出会ったのは織田信長と名乗る自分と瓜二つの顔を持つ男だった。病弱で世を忍んで生きていくことを選んだ信長から身代わりを頼まれたサブローは、“織田信長”として戦国の世を駆け抜けることになるのだった。

【みどころ】
この作品の魅力は主人公のサブローがあまりに飄々としていて、織田信長のイメージとかけ離れている点である。サブローはあくまで普通の高校生……より少しばかり日本史の知識が少ない穏やかな性格の少年。彼の口から「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」といった言葉が出るとはとても思えない。しかし彼は見事に織田信長としての偉業を着々と成し遂げていく。

サブローが覚えている数少ない日本史の知識のひとつが「織田信長は天下統一を成し遂げた男である」ということだ。サブロー自体は織田信長と聞いてイメージするような残虐で冷徹な性格ではない。だが、「織田信長の身代わりを任されたからには、天下統一を果たさなければならない」という強い意志が時に冷酷な決断をさせ、周りから何を考えているのか分からない恐ろしい男だと捉えられてしまうようになるのである。

なぜサブローがタイムスリップしてしまったのかということも含め、この作品には続きが読みたくなるような謎が多くある。サブローの他にも現代からタイムスリップしてしまったキャラクターが次々と出てくるが、皆タイムスリップした状況や場所、時期が全く異なっている。サブローは自分にそっくりな織田信長という存在がいたが、斎藤道三や弥助は歴史上の人物がそのまま認識されている。斎藤道三のようにタイムスリップした先で死んだ者は、現代では存在しない者となってしまうのか、行方不明という扱いのままなのか、はたまた死んだ拍子に現代に戻ってきてしまうのかということも気になる。そして明智光秀として再びサブローの前に現れた“本物の織田信長”とサブローの関係はこれからどう変わっているのか。この先まだまだ目が離せず、歴史ファンならずとも広くオススメした漫画だ。

【作品データ】
・作者:石井あゆみ
・出版社:小学館
・刊行状況:10巻まで(続刊)