マンガ大賞2011ノミネート『アイアムアヒーロー』レビュー

アイアムアヒーロー 5 (ビッグコミックス)

■あらすじ
打ち切り漫画家の鈴木英雄は35歳。ときおり訪れる妄想に悩まされながら、漫画のアシスタント業で食いつなぐ日々。数少ない心のオアシス、恋人の徹子にさえ酔っぱらうとなじられる始末だった。
奇行の目立つ英雄は社会的には不適合者だが、彼をとりまく“世界”はもっと激しく狂いつつあった。蔓延していく「風邪のような症状」、たまたま夜道で目撃した「交通事故で首が折れても死なない通行人」。そして変わり果てた恋人の姿を見たとき、英雄の日常は終わりを告げた……。

 

■みどころ
前回に続き、2年連続のノミネートとなった。ジャンルは『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』『ドラゴンヘッド』などに近いパニックホラーだ。

いきなりゾンビのように変貌して他人を襲う人々、噛まれた者は感染して新たなゾンビが増える。警察も自衛隊も役に立たず、社会インフラもどんどんマヒしていく。そんな中で主人公たち生き残りは決死の逃避行を繰り広げる……ありていに言ってしまえばこんな感じのストーリー展開。一見したところ普通のホラー物だが、もちろんあのマンガ大賞が2年連続ノミネートするくらいだ。凡作であろうはずがない。

この『アイアムアヒーロー』の特色は、ズバ抜けた構成力&見せ方だと思う。ちょっとしたシーンが後で役割をもち、読み返すたびに我々読者は新たな発見をすることになる。

とりわけ作者の構成センスが光るのは単行本1巻、ラスト8ページだろう。4連続の見開きによるショッキングなシーンで、ここで恐怖のあまり読むのをやめてしまった人も多いはず。だが、2巻を読んでからまた1巻ラストを読み返すと、そのシーンに出てきた重要キャラ(英雄の恋人)がどんどん愛おしく思えてしまう。スプラッタなシーンが純愛シーンにも解釈できてしまうような描き方ができるのは、この作者以外にいないだろう。

また、日常の崩壊を一気に進めず、じりじり少しずつ“這い寄る恐怖”を表現したのも高評価。たいていのパニックホラー漫画は読者を惹きつけるためだろうか、連載スタートから1話~2話ほどで全面的パニックを描こうとする。

対して本作『アイアムアヒーロー』は、そのペースがゆっくりだ。英雄が本格的に巻き込まれるのは1巻ラストからだが、それでも社会基盤が完全には崩壊しない。現在最新の5巻でもまだ通信が使え、ネット掲示板ではニートらしき若者たちが事態を茶化すような書き込みを続けている。こうした“ギャップ”の描き方も、読めば読むほど味わいが出てくるのだ。

作者が『ルサンチマン』などで知られる花沢健吾なので、良くも悪くもクドい絵柄や、個性的すぎる主人公の性格描写にちょっと敬遠したくなる人もいるだろう。しかし気合いを入れて読んでみると、ぐいぐい引き込まれるストーリーテリングに驚かされるはずだ。

1巻だけでなく、まとめて2巻まで読めば真価を発揮する本作。「大人のための現代ホラー漫画」として随一のクオリティなのは保証したい。

■受賞予測
中位から上位、トップを狙える位置にはくるだろうと思う。昨年ノミネートされた時は、最終的に4位だった。あの『バクマン。』とわずか5ポイント差だったので、実質ベスト3に近いところまで来ていたのだ。

ただし昨年のノミネート時点で、この『アイアムアヒーロー』を怪作たらしめる要素はほぼ出揃っていた。それで選考委員が4位と位置づけたのなら、今回もやはり同じくらいのポジションになるのではないだろうか。あとは他にノミネートされている注目作がどの程度のポイントを集めるか、それに尽きる。

■作品情報
作者: 花沢健吾
出版社: 小学館
掲載誌: ビッグコミックスピリッツ
既刊数: 5巻まで(続刊)

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