2年前の『マンガ大賞』の際に初めて顔を合わせ、それからイタリア在住のヤマザキマリ(マンガ家。代表作:『テルマエ・ロマエ』)が日本へ帰ってくるたび親交を深めているという両人。人付き合いが苦手だという羽海野チカは、「日本の誰よりもマリさんが一番顔を合わせている人」だという。こちらの対談は前半と打って変わって、和やかなムードでスタートした。
壇上に上がると、2人はまず「(藤子(A)先生たちの話が)面白すぎて、自分たちが上がらなければいけないことを忘れていました。緊張しています」と少々緊張ぎみ。元・リポーターだというヤマザキが気を取り直して「今日は黒い衣装を着ると聞いていました」と着用しているドレスについて触れると、羽海野は「トークショーもやると聞いて不安になってしまって、夜中にツイッターで『着ていく服もないしどうしよう』と暗い話を切々と呟いていました。そしたら、服飾デザイナーの丸山敬太さんがドレスを作ってくださったんです。勇気の甲冑を着て今日はこの場に立っています」と少し誇らしげに微笑んだ。
羽海野は対談の中で、『三月のライオン』でも手塚マンガのように「本当に悪い人はいない」といった人物像を描きたいと語る。ヤマザキはその人間性の豊かさに、『三月のライオン』の面白さがあると作品の妙に嘆息した。また、「(作中の)三姉妹の食欲ヤバイですね。甘い物を盛りつける描写を見ると悶絶しそうです。イタリアに甘味屋も大福もないですから」とヤマザキが食事シーンを絶賛すると、「私、わりと思い詰めたぐるぐるしたマンガを描いてしまいやすいので、読者さんが苦しくなっただろうな、と思った頃に美味しい食べ物を出すようにしています。それも誰でも食べたことのある、おにぎりやシチュー、カレーなど」と答えた。羽海野にとっても読者にとっても、我慢したからこそ「美味しいもの」効果が倍増されて作品を面白くしているのかもしれない。
そしてヤマザキが「1984年にイタリアへ行った私には、日本の風景といえば昭和です。先ほどの藤子(A)先生のお話ではないですけど、お金はないけど幸せっていっぱいあったはず。そういうのを思い出させてくれるのが『三月のライオン』なんです」と言うと、「世代が変わっていく中で、若い人たちに昔はこんな時代だったとわかってもらえるマンガになったら嬉しいです」と、羽海野氏も自身の作品に“昭和”の温かみを盛り込んでいると明かした。
最後に「アトム(のブロンズ像)とおうちに帰れるのがホントに嬉しくて」と羽海野氏が弾んだ声を出すと、「私はアレを持って帰ろうとして税関で捕まりました。結局別送便で送りましたよ」と自身が賞を取った時の裏話を明かすと観客爆笑。ショーが終了した後も、列席者は誰もが熱気冷めやらぬ顔でファン同士の交流を深めていた。本当に素敵な贈呈式だった。
【関連URL】
・「手塚治虫文化賞」公式サイト
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