バイオーグ・トリニティ 3 (ヤングジャンプコミックス)

近未来の日本を連想。『バイオーグ・トリニティ』の世界観とは

バイオーグ・トリニティ 3 (ヤングジャンプコミックス) 【あらすじ】
掌に穴のあく病気「バイオ・バグ」が世界中で流行し、患者と健常者との間で戦争が起きた。“バイオ・バグ”とは取り込んだものを分子レベルで融合し、特殊な能力を発揮することができる。混沌とした世界に平和をもたらしたのは、スマートフォンからイヤホンで接種する「解除薬(ドラッグ)」。一見平和が訪れたかに見えたが……。「世界のゆらぎ」を見てしまい「バイオーグ・ハンター」に命を狙われることになった藤井は、謎の戦いに巻き込まれ、親友の穂坂正路を助けるためにバイオ・バグを発動させる。あやういバランスで成り立つ世界で、恋心とか青春、はたまた世界の行方はどうなっちゃうの!? 藤井、穂坂正路、榎本芙三歩、井本 極子。同じ高校に通う、個性豊かな4人を中心にポップに描きだされる近未来SF物語。

【みどころ】
「マジで榎本芙三歩が好きすぎて俺死ぬ。」「2秒で死ね。」「俺、お前と1つになる」独特の口語体、物語のスピード感とリズムは、漫画になっても色褪せない。原作は『阿修羅ガール』で、三島由紀夫賞、『好き好き大好き超愛してる。』大学読書人大賞を受賞した、舞城王太郎。舞城が描くポップで、異常な超現実と卑近な日常を同時に描く世界観に、『天上天下』『エア・ギア』などの作者で知られる大暮維人の作画が濃厚に絡み合う。

本作『バイオーグ・トリニティ』の魅力は大きく2つに分けられる。1つは舞城ワールド全開の舞台設定。序盤は物語の全貌を読み解くことは難しいが、読み進めていくうちに1つ1つのピースがハマるかのように、物語の全貌に近づいていき、読者を惹きつけて離さない。

もう1つは、キャラクターたちが作中で放つ存在感。こちらも舞城作品の特徴と言える。主人公の藤井は、一見表裏のない性格で顔が広いが、榎本芙三歩にホの字だけどアプローチをすることができない引っ込み思案。ダブル主人公となる穂坂は、「2秒で~」が口癖のサド気質のメット頭。ヒロインの榎本芙三歩は、世界を揺るがす能力を持つ美少女だが、極度の味覚オンチ。もう1人のヒロイン井本極子は、密かに藤井に想いを寄せる姉御肌。趣味はバイクで、バイクと融合。4人の存在感が作品にスパイスを加えている。本作の軽快なスピード感とポップな作画に、ライトノベルを連想するファンも少なくないが、芥川龍之介賞候補に3度ノミネートされた舞城王太郎の世界観は、ジャンル分けをすることに意味をなさないのではないか、読了後、ふとそんなことを思った。最新刊は12月19日発売予定。

【作品データ】
原作:舞城王太郎 作画:大暮維人
出版社:集英社(ウルトラジャンプ)
刊行状況:2巻まで(続刊)

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