将棋漫画考察 【第6回】将棋ソフトの進歩

先日(2010年10月11日)、将棋の清水市代女流王将とコンピューター将棋システム「あから2010」が対戦、「あから2010」が勝利した。「あから2010」は、「激指」「GPS将棋」「ボナンザ」「YSS」の将棋ソフトを利用したもので、それぞれのソフトの結果を合議して指し手を選択するシステムを取っている。純粋に将棋ソフト単体の強さとは異なるが、トッププロへの勝利が十分視野入ってきたと考えても良いだろう。少なくとも「永久に勝てない」とは言えないはずだ。

もちろんそれで人間の対局に魅力がなくなるわけではない。例えば100メートルを9秒で走ることができればオリンピックで金メダル確実だが、時速はわずか40キロに過ぎず、中古の原付バイクでも出せるスピードだ。だからと言って、人間の100メートル走に魅力がなくなるわけではないだろう。

 

市販の将棋ソフトでもアマチュア有段者の力量は十分にある。様々な設定を変えることで、初心者から上級者まで楽しめるよう工夫されている。そこで問題になってきたのが、ネット対戦などで将棋ソフトに考えさせる‘ソフト指し’と言われる方法だ。勝ちに貪欲になるが故に、自分以外の力を使っても勝ちたいと思ってしまうのだろう。スポーツのドーピングを思えば、そんな考えが生まれるのも仕方の無いことかもしれない。

しかし勝負の世界に不正な手段を持ち込むのは許されるべきではない。たとえば将棋漫画の中では、合図を決めておいて上級者にアドバイスを求めたり、電話で指し手を教えてもらうシーンがある。他人の手を借りれば、不正は見つかりやすくなるだろう。しかし一人で通信端末を使って将棋ソフトを使うとしたら、発見は一層難しくなりそうだ。道具は使う人によって、良くも悪くも使われる。早晩、根本的な対策を取る必要が出てくるのかもしれない。

【将棋漫画紹介】

三月のライオン』(連載:白泉社「ヤングアニマル」、漫画:羽海野チカ、監修:先崎学八段)
『ハチミツとクローバー』の羽海野チカの作品。白泉社ヤングアニマルで好評連載中。雑誌を読んだことのある人ならわかると思うが、雑誌の中ではカラーの異なった漫画のひとつ。高校生の棋士を主人公にして、対局光景だけでなく日常生活なども深く描かれている。ありがちな波乱万丈の展開もあるが、何事もなく淡々と過ぎていくシーンも印象深い。

将棋界に関しては、タイトル戦の名前を変更するなどがあるものの、かなり正確に描いてある。それだけにある程度、棋界の知識がないと理解しにくい面もある。一部の登場人物(主に棋士)には、モデルと思われる人物がいるので、それを想像するためにも、やはり将棋界の知識があった方が良いだろう。コミックスは4巻まで発売済み(5巻は11月26日発売予定)。ヤングアニマルが月2回刊の上、連載が不定期なので展開の遅さにじれったい感じもするが、これからもじっくり楽しめそうな作品。

すっとびの桂馬(けい)』(連載:日本文芸社「週刊ゴラク」、漫画:向後つぐお)
やや古い時代(昭和40年頃)を舞台にしていることや、資料不足なのか将棋界の設定におかしな点が多く見られる。しかしこの作品の眼目は、大山康晴、升田幸三、花村元司などのオールドファンには、垂涎の棋士が出てくることだろう。脇役のため大活躍することはないが、主人公に大きな影響を与えている。特に花村元司はアマチュアからプロになった唯一の棋士(現在は違うが)として、主人公を導く重要な立場にある。

ストーリーは真剣師(漫画内では「くすぼり」と呼んでいる)の主人公が、ライバルとしのぎを削りながら成長していく展開。紆余曲折の末に一旦はプロになったものの、ラストではプロを離れてしまい尻切れトンボの結末になっているのは残念。ただしあれ以上続けるのであれば、根本的に設定を見直す必要があると思われるので、その意味では十分な結末とも言える。古本屋やネットオークションでたまに見かけるので、興味のある人はぜひ読んで欲しい。

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