異国迷路のクロワーゼ 1 (角川コミックス ドラゴンJr. 111-2)

日本からやって来た少女・ユネのパリ滞在記『異国迷路のクロワーゼ』

異国迷路のクロワーゼ 1 (角川コミックス ドラゴンJr. 111-2) 【あらすじ】
19世紀後半。ヨーロッパで日本文化(ジャポニズム)が流行していた時代。単身フランスのパリへと渡った日本の少女・ユネは、時代遅れの商店街「ロアの歩廊(ギャルリ・ド・ロア)」の一画にある鉄工芸店「ロアの看板店(アンセーニュ・ド・ロア)」で奉公することになる。フランスと日本の文化や価値観の違いに戸惑うユネだったが、若き店主・クロードやパリで暮らす人々との交流を通じ、成長していく。

【見どころ】
月刊ドラゴンエイジで連載中の、19世紀後半のパリを舞台に日本からやって来た少女ユネと彼女を取り巻く人々との交流を描くハートフルな物語。作者は、桜庭一樹氏の代表作『GOSICK -ゴシック- 』シリーズの柔らかで繊細なタッチの挿絵や、『やえかのカルテ』など温かな物語構成に定評がある武田日向氏。

舞台は19世紀後半のフランス・パリ。ヨーロッパで日本文化(ジャポニズム)が流行していた時代。とりわけ、ジャポニズムの影響を受けたのは、当時パリ画壇で隆盛を迎えていた印象派の画家たちだったと言われています。

単身日本からやって来た主人公の湯音(ユネ)は、おかっぱ・着物・小柄な体格・礼儀正しい物腰とまさにジャポニズムそのものを象徴するかのような存在。印象派の画家・モネの作品『ラ・ジャポネーズ』で描かれている着物を着て扇子を持つ西洋人の少女像と、西欧文化の中心とも呼べる地へとやって来た東洋の少女・ユネとの姿がどこか重なり合うように思えました。もし彼がユネと出会うことがあったならば、きっと顔をほころばせて喜んだに違いありません。

我々日本人からしてみれば、大和撫子という概念を象徴する少女像であるユネ。とはいえ、ただ可愛らしくて貞淑なだけでなく、たった一人で異国の地へやって来るという好奇心と行動力をも持ち合わせています。この作品の一番の魅力は彼女の存在と言っても過言ではありません。

ユネが「ロアの看板店(アンセーニュ・ド・ロア)」にやって来た当初は、クロードの父親の遺作を壊してしまうなど失敗を繰り返してしまいます。文化や価値観の違いから仕方ないとはいえ、ユネに苛立つクロードは、かつて長崎の看板娘だったユネに「あんたじゃここの看板になれない」と厳しい言葉を言い放ちます。それもそのはず、「ロアの看板店(アンセーニュ・ド・ロア)」は経営難からあと一年で店をたたまなければなりませんでした。そのことを知ったユネは、母の形見である着物を売ってもらいます。

当面を凌げる資金を得ることができたクロードでしたが、母の形見であることを知りなぜそこまで自分たちのためにしてくれるのか理解できずに戸惑ってしまいます。しかし、「歩廊(ギャルリ)の家族になりたい」と言うユネの姿に心を突き動かされ、いつか必ずユネの着物を買い戻すことを誓います。ユネの強さと優しさを現すこのシーンで、ユネのファンになったという読者も多いのだとか。

風呂にも簡単に入れない、笑顔であいさつしても避けられる。ドライで簡単に人間を信用しないパリの人々との付き合い方や、文化・価値観の違いに悩むユネですが、クロードを始め、ジャポニズムに傾倒するブルジョワジーの少女・アリスやパリの人々との交流を通じて成長していき、やがて頑ななパリの人々の心をも動かしていきます。小さな体で頑張っているユネの姿を見ているだけで、思わずほっこりしてしまいます。

現在2巻まで刊行されている本作ですが、不定期連載ということもあって続刊が待ち遠しいところ。

【作品データ】
作者:武田日向
出版社:富士見書房
刊行状況:2巻まで(続刊)

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