信長のシェフ 6 (芳文社コミックス)

ドラマも好評放送中!『信長のシェフ』原作レビュー

信長のシェフ 6 (芳文社コミックス) 【あらすじ】
いきなり見知らぬ場所にタイムスリップしてしまった料理人の青年・ケンは、自分の素性に関する記憶をほとんど失っていた。とまどうケンは刀鍛冶の少女・夏に助けられ、自分が激動の戦国時代に来てしまったことを知る。しばらく夏の家に居候しながら、完璧におぼえている調理の技術を地元の人々へ惜しげもなく振る舞うケン。そんな彼のもとに、噂を聞きつけた“ある人物”が訪れた。その人物とは戦国の覇王・織田信長。信長のシェフ(料理番)として召し抱えられたケンは、たぐいまれな料理の技術と信念を発揮し、戦乱の時代を駆け巡ることになる――。

【みどころ】
この1月から玉森裕太の主演でドラマもスタートした、異色の歴史&料理人ストーリー。ドラマ版も初回視聴率11.6%と、なかなかの好スタートなようだ。

ざっくり作品コンセプトを言ってしまえば、漫画原作で実写化された『JIN-仁-』と似ている点が多い。外科医→料理人という主人公のスキルは異なるものの、平和な現代から激動の時代へタイムスリップし、当時まだ存在しなかった知識を活用して人々を助ける……という根幹は共通だ。

ただし似ているのはコンセプトだけで、実際に読んでみた印象はまったく異なる。まずタイムスリップで飛び越えた時代の幅が『JIN-仁-』よりはるかに大きく、幕末どころか400年以上前という大昔である。そのためケンがおぼえている現代の知識をそのまま生かすことが難しく、大幅なアレンジ(応用)が求められている。なにせ当時は食材が少ない、調味料が少ない、作物を育てる堆肥も発明されていない。しかも都合の悪いことに――どうやらケンはもともと西洋料理のシェフらしいのだ。まさにハンデだらけである。

その上、戦国時代という殺伐とした環境も追い討ちをかける。信長をはじめ有力者たちからケンに課せられる使命は「相手にこちらの要求を呑ませるための料理」「戦の流れを変える料理」など無理難題ぞろい。むろん“失敗すれば死罪”という暗黙のオプション付き。そんな超ハードな課題を、ケンは料理人としての創意工夫と使命感、自分を救ってくれた少女・夏への淡い想いを胸に乗り越えていく。

また、作中での織田信長の描かれ方もおもしろい。基本的には一般のイメージ通り(逆らう者は誰だろうと容赦しない)なのだが、単なる暴君ではなく、優れたスキルには素直に敬意をはらい、目下の者からでも受けた恩は忘れない、柔軟性に富んだ深みのあるキャラクターとして描かれている。とりわけ固定観念にとらわれない発想力をもったケンとは自分に近いものを感じるらしく、危機の際にはケンだけを随伴させるなど特別な信頼を寄せているようだ。ケンもケンとて、底知れない信長の言動に畏怖しつつ、付き合っていくうちに主従を超えた“友情”に近いものが芽ばえているようにも感じられる。合戦や料理シーンの派手さもさることながら、こうした人間関係のドラマにも見どころが多い。

絵柄については劇画ベースで、やや現代的なデフォルメも入っている感じ。豪傑な男性キャラは荒々しく、女性キャラは可憐に描かれ、作品イメージを損なわないまま存在感をきっちり出せている。他作品と比較しても画力はかなり上位といって良いだろう。

合戦シーンで人が死ぬのは多いが、過剰なエログロ描写はないため、そっち方面が苦手な人でもさほど嫌悪感なく読めるはず。ドラマを見た人もそうでない人も、歴史や料理に興味があろうとなかろうと、あらゆる層にお勧めできる秀作である。

【作品データ】
・作者/原作者:梶川卓郎/西村ミツル
・出版社:芳文社
・刊行状況:6巻まで(続刊)

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