将棋漫画考察 【第4回】女流棋士

しおんの王(8) <完> (アフタヌーンKC)

前回あえて触れなかったのが、女流棋士の存在。囲碁界が男女ほぼ同じ制度の下に運営されているのに対し、将棋会には男女の境が大きく存在している。

女流棋士の起点となるのが、1974年の蛸島彰子、山下カズ子らにより開始された女流名人位戦。年月を経るごとに、女流棋士やタイトル戦の数も増加。林葉直子、中井広恵、清水市代が続き、現在は矢内理絵子、里見香奈、千葉涼子、甲斐智美らがタイトルを争っている。しかしあくまでも‘女流’棋士であって、正式な棋士とは異なるため、待遇面などの差が明確に存在した。

女流棋士の力量は、男性棋士と比較して、一歩も二歩も遅れを取っているのは事実である。それ故に待遇面の差を仕方の無いこととする考えもあるが、女流棋士の存在は将棋の普及やアピールに欠かせないものであるのは紛れも無い事実。それを認識していながら、この格差が放置されてきたことは、将棋界の閉鎖的な体制が持つ問題の一つかもしれない。

2007年にはLPSA(日本女子プロ将棋協会)が誕生、2009年に女流棋士を含めて棋士会が設立されたが、完全に問題は解決していない。今後も女流棋士の数やタイトル戦は増えると思われる。できるだけ早いうちに根本的な対策を取る必要があるだろう。今回紹介する『しおんの王』や、イブニング誌で連載中の『王狩』には、男性棋士に伍して戦う女流棋士も登場する。漫画に現実が追いつくのはいつだろうか。

【将棋漫画紹介】

しおんの王』(連載:講談社「月刊アフタヌーン」、漫画:安藤慈朗、原作:かとりまさる)
原作者の「かとりまさる」が、女流棋士の林葉直子であるのは、将棋ファンには周知の事実。いろいろ問題を起こした後だっただけに、この漫画が再び将棋のアピールになったのは皮肉なところ。

ストーリーは、将棋界を舞台とした勝負とミステリーを交えた起伏に溢れる秀作。主人公である11歳の女の子、安岡紫音が勝ち抜いて名人と対戦するところは、成長譚も描いている。タイプの異なった少女棋士3人(内1人は……だが)をメインに描くことで、男臭い将棋界とは一線を画した作品になった。ただし物語として一応の決着をつけてはいるが、必ずしもハッピーエンドでなく、いろいろな含みを持たせた終わり方になっている。

2007年には、フジテレビ系列でアニメ化された。放送期間の関係で、漫画本編よりもアニメの方が先に結末を迎えてしまう。上記にあるように、この前後は女流棋士や将棋連盟に注目が集まった時期。もしかしたら、この漫画のヒットも一因だったのかもしれない。

5五の龍』(連載:少年画報社「少年キング」、漫画:つのだじろう)
作者のつのだじろうがアマチュアの実力者であり、複数の棋士から監修を受けていたことと合わせて、完成度の高い将棋漫画である。『月下の棋士』が登場するまでは、将棋漫画の最高傑作とも言われていた。ただし連載開始が1978年なので、現在とは状況が大きく異なっている面もある。今読むと、絵柄と合わせて古く感じる人もいるかもしれない。

中学生の駒形竜を主人公として、賭け将棋の世界や奨励会での成長を描いている。しかし華々しい活躍よりも、失敗や挫折のシーンを描いた場面が多い。物語のラストも奨励会途中で終わっている。この辺りは掲載誌の「少年キング」の事情(1970年代の部数低迷による作家入替え、1982年には休刊)があったかもしれない。コミックス化されているが、入手は難しい。ただし電子書籍であれば、簡単に購入可能だ。

また近代将棋誌において、後日談にもなっている『虹色四間』が連載されていた。こちらは女子高生、紺野みずきが女流棋士を目指すストーリー。

本作『5五の龍』のキャラクターの一部が脇役で登場する。駒形竜は駒師(将棋の駒を作る職人)、ライバルの何人かは棋士になっている。こちらは近代将棋誌が休刊(実質廃刊)となってしまったこともあり、コミックス化は望み薄。古本屋を探してみてください。

 

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