天才ランナーが命を削るように走る!『奈緒子』『奈緒子 新たなる疾風』

2025年9月13~21日にかけて、日本開催としては2007年の大阪以来18年ぶり、東京開催としては34年ぶりとなる、東京世界陸上2025で見られた世界レベルの戦いは記憶に新しいところでしょう。

身体能力の差が出やすいこともあり、日本の選手が上位に入るのはなかなか厳しい側面もあります。その陸上競技をテーマにした作品が、坂田信弘先生原作、中原裕先生作画の『奈緒子』『奈緒子 新たなる疾風』です。本作は、2008年に上野樹里さん主演で実写映画化されました。

【作品紹介】

作品の舞台となるのは、長崎県にある架空の街・波切島。「日本海の疾風(かぜ)」と呼ばれた少年、壱岐雄介が主人公です。

父親で漁師をしていた健介も、かつては同じく「日本海の疾風」と呼ばれ、将来を嘱望されたランナーでした。しかし、実家の経済事情もあって、中学卒業後すぐに漁師となり、走れなかった自分の夢を、主人公の雄介に託します。

漁のない日は波切島高校のコーチをしていた健介は、家族水入らずで暮らしていました。しかし、そんなある日、家族で観光旅行に来ていたヒロインの四宮奈緒子が海に落ちて溺れそうになったのを助け、自らは力尽きてそのまま亡くなってしまいます。

その後は、小学生で100mと走り幅跳び、中学校では短距離に加えて1500m、高校以降は駅伝やマラソンに挑んだ、天才少年の成長を描いた物語です。

物語は、壱岐雄介に想いを寄せていたヒロイン・四宮奈緒子の回想で描かれています。

【作品の見どころ】

本作の見どころは、壱岐雄介の成長です。

父親の走る才能・異名を受け継いでおり、陸上関係者を含むさまざまなアスリートから注目されているにもかかわらず、走ることへの執着はなく、さまざまな事情もあり、一度は走ることを諦めます。

しかし、その才能を周囲が放っておくはずもなく、中学・高校での先輩、小学生時代からの親友や同級生、雄介の才能に魅せられたアスリートなど、さまざまな人たちの支えにより、引退するまでに多くの伝説を残す雄介。

「天才はえてして孤独に陥りやすい」とよく言われます。実際、その才能を活かして大きく伸びる例もあるものの、逆に持て余すことで生きている間はほとんど恵まれないと言う例もよくあります。

ただ、本作の主人公は、自らのぞんで孤独を選んでいるようにも見え……。

どんなに強い才能を持っていても、それに見合う心が育っていなければ、才能通りの活躍は難しいものです。

実際、雄介も何度も何度も壁にぶつかり続けています。

それらを通して、成長していく主人公に感情移入できる作品です。

【作品データ】
原作:坂田信弘
作画:中原裕
出版社:小学館(ビッグコミックスピリッツ)
ビッコミにて試し読みできます
刊行状況:全39巻
※『奈緒子』 全33巻 『奈緒子 新たなる疾風』 全6巻