呑んだくれから再起を図る父と子~親子の絆を描く『マラソンマン』

34年ぶりに世界陸上競技選手権大会が東京で開催されます。日本の競技レベルも近年上がりつつあるものの、やはり世界の超一流が見られるのは、陸上・スポーツファンにとってはなによりも楽しみです。

その中でも、競技の花形といえるのは男女のフルマラソン。42.195キロの中にはさまざまなドラマがあり、その駆け抜ける姿は見るものを魅了させます。そこで、今回紹介するのは代表的なマラソンマンガのひとつ、井上正治先生の『マラソンマン』です。

【作品紹介】

主人公は、高木一馬と高木勝馬の親子。二人の関係性は、一馬が息子で、勝馬が父親です。

物語は、3部構成。

第1部は、市立香住台小学校時代の一馬を軸に、かつては日本長距離界における期待の若手だったにもかかわらず、落ちぶれて飲んだくれになった父・勝馬がカムバック。

長期間のブランクから、息子・一馬や親友のブルース・ドーンなどの支えもあり、再起を果たすさまがストーリーのメインとなっています。

第2部は、父・勝馬の死後、水泳特待生として大学に入学した一馬が、かつて父が亡くなったマラソンで優勝した、マモ・べラインと再開したことで、特待生をやめて一般部員として陸上部へ入部。

そこで理解者となる先輩の阿川泰や他の一般部員たちと出会い、箱根駅伝を目指します。

第3部の舞台は、その箱根駅伝から5年後の。川も実業団に入ったものの、利権まみれの陸上界で不祥事を起こして謹慎処分を受けました。

そこで、出会ったのが一馬。走ることで、父の勝馬、親友のヒロシを亡くした一馬は、かつての父と同じくタクシー運転手になっていたのです。

過去にさまざまなできごとがあり、人間不信になりかけていた一馬でした。しかし、さまざまな人たちの支えにより再起。

阿川はかつて利権のために裏切った仲間に再会、そしてその舞台にはマモの姿もあり……。

父から子へと受け継がれる、マラソンへの情熱を描いた物語です。

【作品の見どころ】

本作の見どころは、ふたつあります。

ひとつは、才能がありながら抜かれた時点で諦めて棄権してしまうほど、勝負に淡白だった勝馬が息子・一馬のために立ち上がる姿。

ふたつ目は、父・勝馬についで、大学時代にできた親友のヒロシまで走ることで亡くし、失意の中にいた一馬でした。その一馬が様々な人たちの想いを知り、再起に向けて走り出すさまです。

私たちは、やる気を失ったように見える人を見ると、つい「この人はダメだ」と決めつけてしまいがちな傾向にあります。しかし、懸命に取り組む背中を見て、かつての情熱を取り戻すことで、いくらでも再起できることを見せてくれるマンガです。

筆者自身、何度も本作を読んでいますが、今でも新たな発見があります。

【作品データ】
作者:井上正治
出版社:講談社(週刊少年マガジンコミックス)
刊行状況:全19巻