2025年は戦後80年。太平洋戦争終結から、日本は大きな紛争に巻き込まれることなく、この80年を過ごしてきました。その一方で、世界ではウクライナ侵攻やアフガニスタン紛争など、多くの紛争・戦争が起こっているのも現実です。
もちろんこうした争いごとのない世界が理想とはいえ、なかなかその実現は困難を伴います。今回は、戦前・戦時中の日本で軍港都市のひとつだった呉を舞台に、懸命に生きたひとりの女性を描いた、こうの史代先生の『この世界の片隅に』を紹介します。
【作品紹介】
本作の舞台は、戦前・戦時中の日本において、横須賀市・佐世保市・舞鶴市と並ぶ、軍港都市だった広島県呉市。そこに暮らす18歳の女性・浦野すずが主人公です。
物語は1943年、アメリカとの戦争に突入した時代。妹と一緒に祖母の家で仕事を手伝っていたある日、縁談の話が舞い込んできたところからスタート。
呉の北條家に嫁いだすずは、不器用で危なっかしく見えることから、小言も言われるものの、持ち前のユーモアや生活の知恵を発揮して、北條家の人たちから気に入られていきます。
決して裕福とはいえないながらも日常を送っている中、戦況はどんどん悪化。すず自身も不発弾によって片腕を失いながら、希望を見つけながら生きていく物語です。
【作品の見どころ】
本作の見どころは、当時戦争に関わっていなかった一般の日本人がどのように生きていたのか、戦況が悪化していくことでその心理がどのように変化していったかが丁寧に描かれている点にあります。
個人的に印象に残ったのは、戦後の広島市内で出会った戦災孤児がすずに懐き、自宅に連れ帰るシーンです。筆者自身は戦後生まれなので、想像でしかありませんが、胸が痛むとともに涙なしでは読めないシーンでした。
【作品データ】
・作画:こうの史代
・出版社:双葉社
・刊行状況:全3巻(上・中・下)
