ステッキガールになって100年前の東京・銀座を追体験『東京ステッキガール』

「ステッキガール」と聞いて、戦後から平成・令和に生きている私たちには聞いてもわからないでしょう。簡単にいうと、料金をもらって男性の話し相手になる、もしくは恋人や夫人の気分で散歩に付き合う女性のことです(出典:コトバンク)。現代風にいうと、レンタル彼氏の女性版がイメージできますね。

名付け親は、当時の文化人である新井格氏、大宅壮一氏という説があり、実在したかどうかについても諸説あるようです。そんな職業婦人を描いた物語として、伊田チヨ子先生の『東京ステッキガール』を紹介します。

【作品紹介】

物語の舞台は1923年9月1日に発生した、あの関東大震災から復興した昭和初期の東京・銀座。今年(2025年)が昭和100年になるので、だいたい95~100年くらい前ですね。

名家のお嬢様である葉子と、彼女に仕える女中・みちとのやりとりから物語がはじまります。

昭和初期といえば、女性が髪を短く(断髪)すると絶縁や婚約解消、職業によっては退職させられるなどの差別的な扱いを受けていた時代。

そんな時、みちは仕えていた葉子のお見合い話を聞かされます。そこで聞いたのが「葉子はお嫁として、みちは妾(正妻以外の女性)として引き取る」という言葉でした。

これを聞いたみちは、ある日葉子と話していた断髪・洋装の最尖端「ステッキガール」という言葉を思い出し、家を追い出されることを覚悟で断髪しました。

その後、葉子からもらった銀座の地図を片手に、ステッキガールをすることになったみち。

本作は、まったくの世間知らずのみちが、不慣れな姿で憧れの街・銀座を最尖端モダンガールとして案内しながら、ステッキガールとして歩む歴史の「if物語」です。

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【作品の魅力・見どころ】

本作の魅力は、徹底した時代考証にあります。

作者の伊田チヨ子先生は、史学科出身だけあり、特に昔の日本の庶民文化には強く『ベルと紫太郎』『ジョーのグッドニュース』(いずれもKADOKAWA)でも見られた、完璧な時代考証とそれを再現する描写がなされています。

また、読者への説明も簡潔かつ丁寧で、知識のない人にもわかりやすく書かれている点は良いポイントです。

また主人公のみちは、尋常小学校にも行かせてもらえず、まったくの世間知らず。それに対して、仕えていた葉子は名家のお嬢様でありながら自由奔放で、後に取ったみちの行動にも大きな影響を与える対比がよく描かれています。

そして、第2話で登場する警察官の昇之進は、なぜかみちのことを気にかけていて……。みちも少しずつ心惹かれて、当時では考えにくかったであろう自由恋愛へと発展していくのか。

この点も見どころといえるでしょう。

【作品データ】
・作画:伊田チヨ子
・出版社:講談社(シリウスコミックス)
コミックDAYSで試し読みできます
・刊行状況:既刊1巻(以下、続刊)