宇宙飛行士の夢を叶える少女と支える少年の物語『ありす、宇宙までも』

大きな偉業を成し遂げた人は、なぜ成し遂げられたのか。それは、その人が持っている能力の高さはもちろん大きいでしょう。しかし、それだけではありません。最大の理由は、誰かに信じてもらえたからです。

どんなに優れた能力があっても、周囲から否定されたらせっかくの能力も育ちません。今回紹介するのは、言葉が中途半端になってしまったことで、勉強についていけなくなった少女が勉強に励み宇宙飛行士を目指す物語として、売野機子先生の『ありす、宇宙(どこ)までも』です。本作は、2025年のマンガ大賞を受賞しました。

【作品紹介】

本作の主人公は、小学校6年生の朝日田ありす。

彼女の両親は、ありすをバイリンガルに育てようとしましたが、その途中で亡くなってしまったため、本来母語になるはずの日本語も英語も完全に習得できていない状態のままになっていました。

そのために、本来なら読めるようになっているはずの漢字が読めず、学習についていけない状態でした。

小顔で見た目はかわいく、運動神経も抜群と一見非の打ち所がないように思われる彼女は、みんながいう「かわいい」は、マスコットのようなもしくは赤ちゃんのように扱わえる意味だと知っており、そのことをコンプレックスに思っていました。

そのため、いつも独りぼっちでした。

そんなありすのもとに現れたのが、同級生の「コンクール荒らし」犬星類。

全員がありすのことをバカにする中で、異なる見方をしていたのが犬星で、ありすに「放課後の1時間を俺にくれたら、俺が君を賢くする」と言いました。

そして、中学入学後からありすは「宇宙飛行士になる」という夢に向かって、犬星はそれを支える役どころとなり……。

本作は、日本人初の女性宇宙飛行士船長になるまでを描いた物語です。

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【本作の見どころ】

本作の見どころは、ズバリ宇宙飛行士を目指すありすと、それを支える犬星くんの友情です。

「宇宙飛行士になる」「コマンダー(スペースシャトルの船長)になる」というのは、途方もない大きな夢。いきなり、子どもがそんなことを言い出したら「そんなもの無理だから、目指すのはやめなさい」と止める人も多いかもしれません。

たしかに突拍子もないことですが、それでも簡単に否定したり止めたりしてしまうと、その子は「大きいことを言ってはいけないのか」と思ってしまうでしょう。

もちろん、持っている夢との距離感がわからないと目指しようもないので、現実を知るのは大事です。しかし、それは子どもにやめさせるためのものではなく、あくまでも目指す上で足りないものを教えるためのものでなければなりません。

能力は人それぞれ違うので、夢を目指す上で方向転換して別のものに切り替えるのは仕方ありません。しかし、誰かから強制的にやめさせられて方向転換するのと、自身で納得して次へと踏み出すのとでは、そのモチベーションは大きく異なります。

実際、ありすは自身が弱点として認識していた「聴こえすぎる」弱点をうまく転換して、宇宙飛行士選抜ワークショップで上位の成績を収める描写があるように、捉え方次第で大きな武器になりうるのです。

私たち大人にとって、うまく導いていくうえでの参考になる点が描かれています。

【作品データ】
・作画:売野機子
・出版社:小学館(ビッグコミックスピリッツ)
ビッコミで試し読みできます
・刊行状況:既刊3巻(以下、続刊)