事実無根の罪で断罪・誹謗中傷される恐怖『でっちあげ』

教員採用試験の倍率低下が言われて久しい。特に倍率低下が深刻なのが小学校で、全国平均が2.2倍。実際、Xのポストを見ると「教師のバトン」というハッシュタグで、教育現場の現実がよく書かれています。

受験者数が減ったのが、やはり大きな理由です。その原因としては、保護者からのクレーム対応を求められること、夜遅くても呼ばれたら対応せざるを得ないことなどがあげられます。今回はこのような教育現場の現状を描いた作品として紹介するのが、福田ますみ先生原作、田近康平先生作画の『でっちあげ』です。本作は、福田ますみ先生の『でっちあげ―福岡「殺人教師」事件の真相―』を原案として描かれています。

【作品紹介】

舞台は福岡市の公立小学校。

そこに「史上最悪の体罰教師」と呼ばれた男性教師がいました。福岡市の「教師によるいじめ」事件といえば、聞いたことのある人も多いでしょう。ただ、20年以上前に起きた出来事なので、記憶が薄れている人も多いかもしれないですね。

物語は、平成17年(2003年)にある週刊誌に載った「死に方教えてやろうか」という記事を、サラリーマンが電車で読んでいるところからスタート。

当該教師が家庭訪問を行った日から、教師の悪夢がはじまります。

その後、学校側・市教育委員会は、当該教師に停職6ヶ月の処分を課し、PTSDを発症したと診断された児童はその後投稿できなくなります。

教師も当初は「いじめ」の事実を認めていたものの、次第に報道されているような体罰やいじめはしていないと反論。自身の身の潔白を主張します。

その後、児童とその両親は福岡市と当該教諭を被告として、民事訴訟を提起。教師は断罪されるはずでしたが……。

本作は、実際の冤罪事件をドキュメントにした作品を原案に、その発端から冤罪になるまでの過程をマンガにしたものです。

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【本作の見どころ】

本作を読んで感じたのは、いじめの事実がないのに認めさせられることの怖さです。

実際、上司などから問い詰められることで、やっていないことでも自身がやったと認めてしまった経験を持つ人も多いかもしれません。

しかし、その結果起こるのが本来責められる必要がないにも関わらず、責任を負わされるわけです。

また、マンガでは序盤は母親視点のエピソードが中心で、物語が進むごとに教師視点のエピソードに進んでいきます。最初は保護者が正しく、教師が一方的に悪く描かれますが、だんだんそうも言えなくなって来ることがわかります。

実際、作品の途中まで教師の顔全体が描かれることはなく、とにかく口など顔の一部が大きく強調された描写しか出ていないのです。しかし、教師の顔が明らかになると、その表情は母親視点の教師とは異なり、優しい表情をしている顔が描かれます。

言葉は良くありませんがが、本作は野次馬にすぎない第三者が見聞きした情報を信じ込むことで起こりやすい弊害を、見事に描ききったマンガとして評価したい作品です。

【作品データ】
・原作:福田ますみ
・作画:田近康平
・出版社:新潮社
くらげバンチで試し読みできます
・刊行状況:全4巻