セクハラによってついた傷を描く『生皮~あるセクシャルハラスメントの光景~』

職場に限らず、あらゆるところで問題になっているパワハラ・カスハラなどのハラスメント(嫌がらせ)行為。厚生労働省の統計によると、労働局での相談件数はセクハラが7,000件弱あるそうです。

今もなお、ハラスメント行為に苦しむ人は多いものの、なかなか訴えられない現実があります。セクハラを受けた人の苦しみを描いたのが、井上荒野先生原作、粟森きち先生作画の『生皮~あるセクシャルハラスメントの光景~』です。

【作品紹介】

主人公は、動物病院に看護師として勤務する九重咲歩。彼女は、小説講座の人気講師・月島功一からその文学的才能を見込まれていました。

プロから才能を見込まれて嬉しい咲歩でしたが、待っていたのはそれにつけこむようにして行われた月島から受けた性暴力だったのです。

その後は、誰にも秘密を明かすことなく過ごしていた咲歩は、講師としての地位を固めてマスコミにも登場するようになった月島を見て、7年後に告発の覚悟を固めます。

しかし、そこには大きな苦しみを伴う戦いが待っており……。

本作は、生皮を剥がされるように心身をボロボロにされた女性の視点から描かれた、今の時代を貫く物語です。

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【作品の見どころ】

本作の見どころは、ハラスメントされた側の心の傷にあります。

よく「イジメた側は忘れていても、された側は覚えている」と言いますが、それはハラスメントについても同じです。

した側は忘れたとしても、された側はいつまでも覚えています。

そして、その傷は癒えるどころか、年が経つごとに深く大きくなる可能性もあるのです。

筆者自身も会社員時代にされたことがあり、私は告発こそしなかったものの、ハラスメント行為をした当時の上司・経営者・同僚の言葉をすべて無視して、会社をグチャグチャにして辞めたことを今でも覚えています。

どの企業もハラスメント対策をしているとは言え、その行為がなくなることはないでしょう。

それでも、された側の傷に目を向けなければ、会社もその行為を許したとみなされてしまう可能性があることは、頭に入れておいてもらいたいと切に願います。

私の話はここまでにして、過去にハラスメント行為をされた側にいる人は、もしかしたら読むのが辛いと感じてしまうかもしれません。

それでも、セクシャルハラスメントに限らず、ハラスメント行為が行き着く先を知る上で、貴重な作品であると筆者は考えます。

【作品データ】
・作画:粟森きち
・原作:井上荒野
・出版社:小学館(ビッコミ)
ビッコミで試し読みできます
・刊行状況:既刊1巻(以下、続刊)
※原作は、朝日文庫全1巻(朝日新聞出版)