難聴の少女とレズビアンの少女が紡ぐ絆『雨夜の月』

タイトルにもなっている『雨夜の月』は、雨降る夜に月が見えなくなるのと同じで、あっても見えないものの例えとして使われます。見えないときがあるからこそ、月は大変に尊い存在なのです。

さて、同じくなかなか見えにくいものに友情の絆があります。平和に生きているときには、あまり意識することはないでしょう。しかし、何らかの障害や悩みを持っている人は、特に意識します。今回は、感音性難聴で耳が聞こえない少女と、セクシャルマイノリティ(レズビアン)であることに悩む少女が紡ぐ絆を描いたくずしろ先生の『雨夜の月』を紹介します。

【作品紹介】

本作の主人公は、高校1年生の及川奏音。彼女は長い黒髪が印象的な美人です。ピアノが好きながら、感音性難聴を患っており、聞こえないことがあります。

高校入学直前のある日、主要人物の金田一咲希がピアノレッスンに向かい途中、見知らぬ同世代の少女と出会うところからスタート。咲希はその少女とぶつかって、手を擦りむきます。

相手は無言で落とした楽譜を丁寧に拾って渡し、絆創膏を手渡すと足早に立ち去っていきました。

その少女のことが強烈な印象に残っている中、奏音が転校生としてやってきて、はじめて耳が不自由なことを知ります。

障害を理由に周囲と距離を置こうとする咲希。咲希は寂しさを覚えて、どうにかわかり合おうとします。

最初は突っぱねる奏音でした。しかし、それでも自分と交流を持とうとする咲希に、態度が次第に変わっていき……。

障害を理由に心を閉ざしている奏音と、自身のセクシャリティに悩む咲希との友情物語がはじまります。

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【見どころ】

『雨夜の月』のテーマは、感音性難聴という聴覚障害とともに生きる少女と、そこに寄り添う少女ふたりの友情です。

五体満足に生まれて育つ人がいる一方、生まれつき何らかの障害を持って生まれてくる人がいます。その他、何らかの原因によって後天的に障害を背負うことも。

こうした障害を持った人間を主人公にしてマンガを描く際、感動の対象として見られがちです。実際、障害を持って生まれてきたけれど、こうして一生懸命に生きていることは素晴らしいなど、お涙ちょうだい的な見せ方をされることがよくあります。

しかし、それは本人にとっても失礼な話です。

同様のことは、LGBTいわゆるセクシャルマイノリティにもいえます。性的指向はさまざまあり、どのような指向を持っていようが自由です。しかし、実際にその当事者が目の前に現れたらどう接していいかわからなくて戸惑ってしまうかもしれません。

本作は人間の持つ障害やセクシャルマイノリティについて、知らないことは何も悪いことではなく、知ろうとしないことが悪いことなのだと教えてくれます。

障害を持つ人やセクシャルマイノリティがどう考えているのかを知りたい人におすすめしたい作品です。

【作品データ】

作者:くずしろ
出版社:講談社(コミックDAYS)
コミックDAYSにて試し読みできます
刊行状況:既刊8巻(以下続刊)