葛飾北斎の娘が北斎になり代わる?『女北斎大罪記』

講談社「月刊ヤングマガジン」で連載が始まった『女北斎大罪記』(末太シノ)が面白いです。

葛飾応為(かつしか おうい)と聞いてピンと来る人はどのくらいいるでしょうか。そんな人でも「葛飾北斎(かつしか ほくさい)の娘だよ」と聞けば「ああ、そうなんだ」と思うでしょう。父親である北斎譲りの、いえ北斎ですら一目置く画才を持った応為ですが、北斎が亡くなって後、彼女の後半生についてはよく分かっておらず、現在のところ亡くなった年月日や場所も不明です。

先に書いたように、北斎ですら一目置く腕前の応為ですが、現存する作品数が少ないんですね。研究者によると、北斎の作品とされる中に応為が加筆したと考えられるものや、応為が描いた絵を北斎の名前で売り出したらしいものが少なからずあるとのこと。この辺りをベースとして漫画にしたであろう作品が『女北斎大罪記』です。

「月刊ヤングマガジン」8月号から連載が始まった本作。第一話「北斎の娘・栄」では、中盤まで元気で画業に励む北斎が登場しますが、ラストシーンでは絵を描くために屋根に組んだ小さな舞台から転落して亡くなってしまいます。そんな父親の死を目の当たりにして息づまりを感じていた栄(応為)でしたが、画家仲間の渓斎英泉(けいさい えいせん)の説得もあって、北斎になり代わる決心をします。

さすがに「大丈夫かなあ」と思ってしまいますが、北斎の妻、つまり栄(応為)の母親にも北斎の死を明かして協力を得られたことで、何とか見通しが立っていきます。直後に難関と思われた曲亭(滝沢)馬琴の依頼もこなしました。ただし最新「月刊ヤングマガジン」11月号掲載の第四話「いい形」になると、ほんの少しながらも栄(応為)の絵に違和感を覚える登場人物も出てきて、先行きに影を落としています。

個人的にちょっと引っかかったのは、北斎が屋根に作った舞台から転落死した場面。と言うのは、「本当に転落死かなあ」と。確かに作中で北斎は舞台で背伸びをした後、はしごと共に転落したように描かれています。でも、誰かに何かをぶつけられるなり、長い棒で突かれるなりして北斎は転落したのではないか。そうでなくとも、北斎の転落を見ていた人がいるんじゃないか…なんて考えてしまいます。もっともその場合には、ミステリーかサスペンスな展開になりそうです。

12月19日には単行本1巻が発売予定。作者である末太シノ(マツダ-)先生にとっては、初の連載かつ初の単行本となります。漫画の展開と合わせて、今後の活躍を楽しみにしています。

そんな葛飾応為。以前の記事「江戸を笑え『毒を喰らわば皿までも?』『大奥より愛をこめて』『北斎の娘。』」(http://comic-candy.com/archives/22430)でも主人公となった作品を紹介しています。4コマ漫画『北斎の娘。』(松阪)ではコメディータッチで描かれているので、『女北斎大罪記』とは随分雰囲気が異なるのですけれども、応為の人となりや環境を理解するのに役立つと思います。まあ、史実と異なる面も多々あるんですけどね。合わせて是非どうぞ。

【作品データ】
作品:女北斎大罪記
作者:末太シノ
連載:講談社「月刊ヤングマガジン」連載中
刊行状況:12月19日1巻発売予定

【作品データ】
作品:北斎のむすめ。
作者:松阪
連載:芳文社「まんがタイムオリジナル」連載
刊行状況:全3巻